【AI Engineering Summit Tokyo 2026】AI Agent時代に求められる「統合データアーキテクチャ」
2026年6月8日・9日に、ファインディ株式会社が主催するイベント「AI Engineering Summit Tokyo 2026」が、浜松町コンベンションホールにて開催されました。
本記事では、ClickHouse株式会社 最高技術責任者 兼 技術統括本部長の北迫清訓さんによるセッション「AI Agent時代に求められる『統合データアーキテクチャ』」の内容をお届けします。
セッションでは、AIエージェントの普及によってデータプラットフォームに求められる要件がどう変化しているのか、その変化を支えるClickHouseの設計思想、そしてClickHouseが展開する次世代データスタック「Agentic Data Stack」の全体像が、具体的な企業の活用事例とともに語られました。
■プロフィール
北迫 清訓
ClickHouse株式会社
最高技術責任者 兼 技術統括本部長
外資系ITコンサルを経て、2012年にAWSジャパンへ初期SAとして参画。Digital Nativeやメディア業界を中心に国内のクラウド普及を牽引。その後、Amazonの音声AIサービスの立ち上げにて技術・ビジネス開発本部を統括。Google Cloudではアーキテクトとして戦略企業のデジタル変革を支援した後、現在はClickHouseの技術統括として、AI時代に求められる次世代データ基盤の普及とデータ戦略の高度化を推進。
データ基盤こそがAIの知能を拡張する
AIとは、渡されたプロンプトやデータをもとに、統計的に文章を組み立てて何らかのアウトプットをするというところが、実際に裏で行われている仕組みになっています。意図を解釈し文章を組み立てるLLM自身は日々性能が向上していますが、その機能を最大限に活用するためにはデータが重要であり、そのデータをAIに提供するデータ基盤の進化が、今まさに問われている状況だと考えています。

AIにとってデータは、AIを動かすためのガソリン、もしくは燃料となります。業務やサービスでAIを利用する際、自社のデータとAIを組み合わせて利用価値を最大化することは、もはや当たり前になりつつあります。
しかし、AIやLLMに単にデータを渡すだけでは、その価値を最大化することは非常に難しく、重要になるのはデータ自体の質、量、そして鮮度や多様性であり、それらがAIの知能の上限を決めます。皆様の業務やサービスにおける品質を向上し、ハルシネーションを最小化するうえでも、適切にAIにデータを提供するデータプラットフォームが中心的な役割を担うことになります。
AIが変える3つのデータ基盤への要求
データプラットフォームに対する重要性は日々増しており、求められるニーズも変化してきています。代表的な例を3つ挙げさせていただきます。

1つ目は、アプリケーションのエージェント化です。従来は人が設計し、決められた内容で処理・動作するアプリケーションでしたが、AIが動的に判断し動作するように変わってきています。これによってデータ基盤へのアクセスパターンが動的かつ予測が非常に難しくなり、従来の静的に最適化されたデータベースでは対応が難しくなってきているという現状があります。
2つ目は、データ分析インターフェースの会話化です。Text-to-SQLにより、自然言語でデータを自由に参照するユーザーが増え、1つの問い合わせが複数のSQLクエリを生成する世界が来ています。従来のバッチ集計やBIツールによるキャッシングを前提としたデータウェアハウスは、その用途を根底から変えていく必要があります。
3つ目は、オブザーバビリティのAI駆動化です。今までは静的なダッシュボードをベースにSREやオペレーターがシステムの状態把握や原因究明を行っていましたが、これからはAIがログをあさり、異常検知から情報の収集、原因の要約までを自動的に行うモデルへとシフトしていきます。これは人間の許容範囲を超えたレベルでAIがログを検索・収集・解析することで、より早く、より適切にサービス継続に向けた取り組みを行うことを可能にします。
データドリブンからワークフロードリブンへ

こうした3つの変化に伴い、データ基盤のあり方は従来の『データドリブン』から『ワークフロードリブン』へとシフトしていきます。
従来のデータプラットフォームは、人や静的なアプリケーションが主体となり、認識されたデータに対してアクセスし、利用されてきました。データ基盤自体も用途ごとに最適化され、サイロ化された環境で構築されてきています。
AIが主体になった場合、これらはワークフロードリブンへと変わっていきます。目的を実行するためにAIが必要なデータを横断的にかき集める仕組みへと変わっていくということです。従来のデータドリブンなシステムではクエリ数やアクセスパターン、レスポンスタイムがある程度想定可能でしたが、AI主導のワークフローでは、AIが1つのワークフローを実現するためにデータストアへランダムに大量のクエリを生成し、アクセスパターンも多様化され、ミリ秒単位でのレスポンスが求められるようになります。
サイロ化され、サービス用途ごとに最適化されたデータストア環境では、たとえデータパイプラインを整備したとしても、環境間でのデータの分断や重複、遅延があらゆる場面で発生します。AIが横断的にデータを参照しようとした瞬間に、データは断絶され、クエリは滞留し、AIは知能を失うことになります。
トレードオフをすべて両立できるClickHouse
なぜ今までこういったデータプラットフォームがサイロ化されてきたかというと、結局はトレードオフであり、その大きな要因はコストです。一番効率の良いデータベース、データストアを選択せざるを得なかったという現状があります。ただし、AI時代になると、そのすべての要件を満たすデータプラットフォームが必要になってきます。

そこでご紹介させていただくのが、次世代に求められるニーズを満たすデータプラットフォーム「ClickHouse」です。ペタバイト級のデータをミリ秒で処理できるよう最適化されたOLAPデータベースであり、圧倒的なデータの圧縮技術と、軽量かつ高速なクエリエンジンを搭載することで、大量のデータを非常にコンパクトかつ低スペックのインフラで処理することが可能になっています。SQLを標準インターフェースにしていることから汎用性および移植性にも優れ、あらゆるワークロードでのデータサービングを実現できる、従来のトレードオフのすべてを「AND」にすることができるAll inのデータベースプロダクトとなっております。
ClickHouseはもともと、ウェブサイトのユーザーのクリックストリームなど、何百万を超えるイベントログをリアルタイムに収集・解析するために作られたデータベースエンジンです。オープンソースとして公開された後、2021年にClickHouse Inc.として法人化され、OSS版をクラウドネイティブにリアーキテクティングした「ClickHouse Cloud」の提供を開始し、わずか4年で4,000社以上の企業に採用されています。日本では、本年2026年より本格的にビジネス展開を始めています。
「データを読まないことが最速」という哲学
ClickHouseは、分析用のデータベースエンジンでありながらも、「データを読まないことが最速である」という哲学のもと設計されたデータベースになっています。

クラウド版では、コストの安価なオブジェクトストレージにデータを格納し、Partsと呼ばれる小さなファイル単位でテーブルの列ごとにデータが書き込まれます。単一のファイルに類似するデータが格納されることで圧倒的なデータの圧縮率を実現しています。他のデータベースに比べて数十倍のデータ圧縮率を実現するとともに、クエリ時も圧縮された最小限のファイルのみを参照することで、オブジェクトストレージにおけるデータの参照量を最小化しています。
ストレージレイヤーで高速化を実現しているのが、MergeTreeと呼ばれる仕組みです。バックエンドで、インサートされたファイルやセレクト用に準備されているファイルを結合しながら順番の入れ替えを行ったり、集計に必要となる事前処理を裏で行うことによって、実際にクエリエンジン側からセレクトされた際には、事前に集計されたデータのみをスキャンして読み取ることで高速化を図っています。また、クエリエンジン側もCPUの機能をフル活用したマルチスレッド、SIMDといった仕組みを低レイヤーで実装するとともに、オブジェクトストレージの同時接続性を生かした複数ノードによる並列アクセスでクエリを高速化しています。
次世代データスタック「Agentic Data Stack」
ClickHouseは単にデータベースエンジンのみを提供しているわけではなく、AI時代において必要となるさまざまなデータを利活用できるプロダクトラインナップを、次世代データスタックとして備えています。

データベースのClickHouseをコアとして、外部システムとのデータ連携をマネージドサービスとして提供する「ClickPipes」、OLTPとOLAPのハイブリッドなデータベースを実現する「Managed Postgres by ClickHouse」、そしてAIと連携したデータ利活用UIを提供する3つのプロダクト(ClickHouse Agent、ClickStack、Langfuse)で構成されています。
「ClickPipes」は、Kafkaなどのストリーミング形式、オブジェクトストレージ、そしてPostgreSQLやMySQLなどとのCDC(Change Data Capture)という3つの主要な取り込み方式を提供しています。なかでもCDCは、トランザクションに強いリレーショナルデータベースと、大規模データ参照に強いClickHouseを接続し、テーブルをリアルタイムに同期させる機能で、アプリケーションからはデータの整合性を保ちながらトランザクション処理と大規模参照系のクエリエンジンを双方使えるハイブリッドなデータベース環境を実現できます。
「Managed Postgres by ClickHouse」は、数クリックでPostgreSQLのデータベースをセットアップできるだけでなく、バージョン管理や冗長化、データバックアップなどがすべて自動でフルマネージドに行われるサービスです。大きな特徴は、リアルタイムでPostgreSQL上の大規模テーブルをClickHouse側に同期するとともに、アプリケーションからはPostgreSQLのエンドポイントのみを参照することで、高負荷となる大規模テーブルの参照クエリは自動的にClickHouse側にオフロードされ、結果がまたPostgreSQLのエンドポイントから返ってくる仕組みになっている点です。
「ClickHouse Agent」は、AIチャットUIの機能として提供されており、ClickHouseのデータベースに格納されているさまざまなデータを自然言語で参照・分析・可視化できます。
「ClickStack」は、AI SREを実現するオブザーバビリティツールです。OpenTelemetryフォーマットでログやトレース、メトリクスデータを流し込むことで、従来型のモニタリングダッシュボードはもちろん、AIによるログ解析機能も提供します。
そして2026年2月に買収した「Langfuse」は、エージェントが生成する大量のログやトレース、メトリクスを取得し、LLMにどのようなインプットがされ、どのようなレスポンスが返ってきたのか、どれだけのトークンを消費しているのかを一元的に管理できるLLMオブザーバビリティツールです。
ユースケースに見るAIとの親和性
すでに多くのAI関連サービスでClickHouseが採用されています。

AI翻訳サービスのDeepLは、ユーザーの行動履歴をリアルタイムで収集してClickHouseに格納し、モデルの改善はもちろん、ユーザーごとにパーソナライズされた利用ガイドの表示にも活用しています。
Anthropicは、Claude 4の開発における分析基盤、およびモデル提供後のオブザーバビリティ基盤としてClickHouseを採用しており、新たなモデル開発にあたってAnthropicのエンジニアが次のプラットフォームに必要なアーキテクチャをClaude自身に確認したところ、ClaudeがデータストアとしてClickHouseを使うべきだと提言してきたというエピソードもあります。
ClickHouseは、AIが選ぶAIのためのデータベースであると言えます。
LangfuseやWeights & Biasesなど、主要なLLMオブザーバビリティのプロダクトはすでにClickHouseをデータストアとして採用しています。もともとこうした企業は PostgreSQLやMySQLなどのリレーショナルデータベースでオブザーバビリティのデータストアを構築していましたが、LLM自身が進化しトークンやデータ量が増えてくる中で処理の限界を迎え、ClickHouseに移行したという事例になります。

EVや自動運転を手がけるTeslaは、800万台以上のEV車、そしてギガファクトリーの製造ラインで生成される秒間数千万規模のテレメトリデータをClickHouseに取り込んでおり、ユーザー向けアプリの状態表示から生産ラインのリアルタイム品質管理まで活用しています。
AIチャットでアプリ開発ができるLovableは、すべてのプラットフォームログをClickHouseに格納し、800万人を超えるユーザーと300万以上のデプロイ済みアプリケーションから日々発生するインシデントに対応するため、サポートエンジニアはClickHouseとLLMを組み合わせた自然言語によるログ解析で効率化しています。

ライドシェアサービスのLyftはリアルタイム分析とバッチDWHの基盤をClickHouseに統合し、コストを88%削減しています。
旅行・ホテル予約プラットフォームのTrip.comは、事業部ごとに分散していたログ基盤を50PB規模でClickHouseに統合し、クエリ速度を最大30倍に高速化できました。
まとめ

AIの燃料となるデータを提供するデータ基盤は、従来のデータプラットフォームの主題であったデータの保存から、AIに知を供給する重要なプラットフォームへと、今後進化していくと考えています。その進化の過程において、サイロ化されたデータ基盤ではAIのワークフローを止めてしまうリスクがあり、統合されたデータ基盤の重要性がより高まってきます。
本日ご紹介させていただいたスピード、スケール、コストに優れたClickHouseをデータプラットフォームとして活用いただくことで、AIの知能を最大限に引き出すことが可能となり、これからの皆様のAI開発における重要なピースになるのではないかと、我々は考えています。
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