【開発生産性カンファレンス 2025】Move Faster, Build Better:テストを超える開発の未来
2025年7月3、4日に「開発生産性Conference 2025」がファインディ株式会社により開催されました。
3日に登壇したAutifyの代表取締役CEOである近藤良さんは、「AIの進化により、コードの大部分をAIが書く時代に突入した」と語ります。一方で、大規模なコードベースでは限界も見えており、要件定義とテストの領域が人手に依存したままの開発現場も少なくありません。
本セッションでは、Autifyが取り組むテスト・要件ドリブンの開発手法を軸とした新しいAIエンジニアリングプラットフォームの構想をご紹介いただきました。
■プロフィール
近澤 良
オーティファイ株式会社
代表取締役CEO
ソフトウェアエンジニアとして日本、シンガポール、サンフランシスコにて10年以上ソフトウェア開発に従事。DeNAにてOSSゲームワークや、全米No.1となったソーシャルゲームの開発を行った後シンガポールVikiに入社しプロダクトエンジニアとして製品開発をリード。その後サンフランシスコへ移住し、現地スタートアップに初期メンバーとして参画。2016年に退社しAutify, Incを米国にて創業。2019年1月米国トップアクセラレーターAlchemist Acceleratorを日本人として初めて卒業。
Autifyについて
私たちAutifyは2016年に創業し、2019年より現在の事業を開始しました。米国本社をサンフランシスコに、日本支社を東日本橋に構え、グローバルで約120名の従業員が在籍しています。
創業から現事業に至るまでは2年半という長い時間がかかりました。何度もピボットを繰り返し、顧客の本当のニーズを探り続けた結果、2019年にソフトウェアテストの自動化事業にたどり着きました。その際、アメリカのAlchemist Acceleratorに日本人として初めて受かって卒業し、事業を本格的に加速させてきました。
2024年6月、Autifyは「HUMAN - 人とAIの総合力で開発を次のレベルへ」というテーマでリブランディングを行いました。これまでのソフトウェアテストツール事業から、AIツールとコンサルティングを組み合わせた包括的なソリューション提供へと進化しつつあります。

現在は、AIプラットフォームとプロフェッショナルサービスを組み合わせ、属人化解消から人材不足解消、AI活用、生産性向上まで一気通貫で支援しています。
現在の開発現場が直面する課題
今日は少しシビアな話をしたいと思います。私たちが直面している現実について、データとともにお話しします。
ヒューマンリソシアの「2040年のIT人材予測レポート」によると、IT人材の慢性的な人手不足が深刻化しています。2030年の高成長シナリオでは20.0万人、2040年には73.3万人の不足が予測されています。
このまま解消されなければ、日本のデジタル化の遅れは取り戻すことが困難になるでしょう。これは業界全体で長年叫ばれ続けている根本的な課題です。

一方で、この1年間でAIの進化が著しく進展しました。コードの大部分をAIが書く時代に突入したことを実感しています。弊社の新製品でも、コードの半分以上をAIが生成しています。
会場にもお聞きしたところ、実務でコーディングエージェントを活用している方が非常に多く、コードの書き方そのものが根本的に変化していることが分かります。ただし、必ずしも皆がAIを効果的に活用できているわけではありません。使いこなせている人とそうでない人、適用できるプロジェクトとできないプロジェクトで、大きな差が生まれています。
この差が生まれる要因のひとつが、スコープの違いです。数万行、数十万行といった大規模なコードベースでは、コンテキストが膨大になり、コンテキストウィンドウの制約により直接的な活用がまだ難しいです。一方で、プロトタイプや小規模な機能開発では、コーディングエージェントが効果を発揮することは周知の事実かと思います。

しかし、開発プロセス全体を俯瞰すると、依然として人手に依存している領域があります。それが開発プロセスの「頭」と「お尻」の部分です。
頭の部分である要件定義では、何の機能を作るべきかの判断や戦略立案が求められます。お尻の部分であるテストでは、開発された機能の受け入れや品質保証が必要です。これらの領域では、AIの活用が十分に進んでいません。
コーディングエージェントを効果的に活用するには、適切なタスクの細分化が不可欠です。複雑なタスクをそのまま渡しても期待する結果は得られません。効果的な活用には事前のプランニングが必要です。
私たちAutifyは、要件定義とテストの両方をソリューションで加速させることで、コーディングエージェントへの適切なタスク落とし込みをサポートしたいと考えています。テスト事業から始まった会社として、これまでテスト領域で培ってきた知見があるからこそ提案できる、新しいソリューションがあると確信しています。

Autifyの新戦略とソリューション
私たちは、単純にAIツールを提供するだけではなく、包括的なソリューションパッケージを提供しています。
AIプラットフォームとして、テスト業務を一気通貫でAI化する「Autify Nexus」と、大規模エンタープライズ開発を一気通貫でAI化する「Autify Genesis 2.0」です。
さらに、プロフェッショナルサービス「Autify Pro Service」により、属人化解消から人材不足解消、AI活用、生産性向上まで一気通貫で支援します。人的なコンサルティングサービスとAIプラットフォームを組み合わせることで、確実な成果につなげることができます。

Autify Nexus
ここから、2025年7月2日に正式ローンチを発表したAutify Nexusについてご紹介します。
私たちは2019年にAutify NoCode Webを出しました。当時はまだLLMが存在しない状態で、機械学習を使って誰でも簡単にノーコードでテスト自動化ができる製品でした。HTMLや画像を分析し、重み付けをマシンラーニングで行って、同じ要素を自動的に洗い出すアプローチでした。
それから6年経って、世の中が変わりました。LLMも出てきましたし、Playwrightが非常に浸透してきました。従来のSeleniumなどはWebDriverを通じて通信するため重くて遅かったのですが、PlaywrightはChrome DevTools Protocol(CDP)を使って、ものすごく軽量で速いのです。
そういった新しいテクノロジーが出てきた中で、テスト自動化をどう変えるか。私たちがそれを再構築したのがAutify Nexusです。

Autify NexusはAIエージェントを基点として設計されています。AIがテスト設計、実装、運用を担当し、人がすべてを手動操作しなくても、エージェントを通じて自動実行される環境を実現しています。
AIエージェントは自然言語からテスト自動化を生成し、セルフヒーリングによるテストの自動修復を行い、テストケースの作成や設計も支援します。私たちは、AIエージェントを自然言語で操作する体験を中心とした製品設計を採用しています。
アーキテクチャ面では大きな変更を行いました。クラウドベースでは、ローカルのデータベースへの接続や、インターネットに公開されていないアプリケーションのテストが困難でした。そこで、デスクトップとサーバーサイドのアーキテクチャを採用し、サーバー部分はオンプレミス対応が可能です。
Playwrightを技術基盤としているため、作成したテストはPlaywrightファイルとしてダウンロード可能で、ベンダーロックインを回避できます。Playwrightで実現可能な機能は基本的にすべて利用でき、高度なカスタマイズにも対応しています。
AIエージェントの機能を実際のデモでお見せしましょう。Eコマースサイトに対して「商品ページで最も安価な商品をクリックしてカートに追加すること、その商品が正しくカートに追加されることを確認したい」という指示を入力すると、AIエージェントがタスクを分解して実行手順を生成し、確認項目には自動的にアサーションを挿入してくれます。

早期ユーザーからは、テスト実行の速度、AIエージェントの自動録画機能、無制限のテスト実行によるコスト効率、シナリオ管理機能の充実、QAチームと開発チームの協働促進について高く評価いただいています。
Autify Nexusのビジョンは「テストの設計から分析までをAIで一気通貫に」することです。機能要件からテストケース生成・評価、QAチームのテストケース取り込み、複数チームのテスト集約・カバレッジ確認、自然言語でのテスト記述・実行、AIによるテストレポート生成などの機能を開発中です。
人とAIの協働による開発の未来
私たちは、これからテストにとどまらず、開発プロセス全体をAIで加速する仕組みを提案したいと考えています。
Autifyの基本的な考え方としては、AIが人の代わりに全てを行うのではなく、人をサポートするチームメンバーとして機能するという側面を重要視しています。
2000年頃、私たちがAutifyを始める前に、ガートナーが発表したレポートには、5〜6年後に多くの会社がAIをチームメンバーとして開発に引き入れるという予測が書かれていました。まさにそのとおりの状況になってきたと感じています。
AIにすべてを任せるのではなく、リブランディングのテーマ「HUMAN」が示すように、人がリードしAIがサポートするという関係性を重視しています。人がAIをリードし、AIに作業を委ねながらも、人が主導権を握るという構造です。
AIの時代において重要なのは、人が何をしたいか、何を作りたいかという意志や創造性は代替できないということです。人とAIの総合力で開発を次のレベルへ押し上げるソリューションを提供していきたいです。


