【開発生産性カンファレンス 2025】MIXIが挑む 自律的組織と自律型AIエージェントの土台となる透明性
2025年7月3、4日に「開発生産性Conference 2025」がファインディ株式会社により開催されました。
4日に登壇した株式会社MIXI みてね事業本部 副本部長 平田 将久さんは、自律型AIエージェントの活用や自律的な組織運営によって、開発生産性を向上させるには「透明性」が欠かせないと語ります。
本セッションでは、透明性を確立するためにNotionを活用した仕組みや実際の取り組み事例を紹介します。また、「透明性」「検査」「適応」の3本柱がどのようにAI活用と組織運営に貢献するのかを具体的にお話しします。
※【セッションスポンサー企業】Notion Labs Japan合同会社
■プロフィール
平田 将久/@kakka_blog
株式会社MIXI
みてね事業本部 副本部長
2011年にミクシィ(現:MIXI)に新卒入社し、エンジニアとしてSNSの「mixi」を担当。2013年に転職し複数企業でエンジニアとしてプロダクト開発、チームのスクラム導入、組織変革などのマネジメント業務に携わった。米国シリコンバレーのスタートアップ企業でプロダクト開発やDX変革のリードを経て、2022年12月にMIXIに再入社。みてねプロダクト開発部部長として「家族アルバム みてね」におけるエンジニアリング組織全体のマネジメントに従事した後、2025年4月みてね事業本部 副本部長に就任。
株式会社MIXIと「家族アルバム みてね」について
平田:まず、株式会社MIXIと、家族アルバム みてねについて簡単にご紹介させていただきます。
私たちMIXIでは、社内外で「PMWV」と呼んでいる理念体系があります。これは「Purpose」「Mission」「MIXI Way」「Values」の頭文字を取ったもので、MIXIの理念の中核を成しています。
Purpose(存在意義)は「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」こと。Mission(使命)は「『心もつながる』場と機会の創造」。MIXI Way(意思決定の軸)として「ユーザーサプライズファースト」を掲げ、Values(行動指針)には「発明 / 夢中 / 誠実」を据えています。
基本的には、豊かなコミュニケーションを広げて世界を幸せな驚きで包むという目的のために存在している会社です。
MIXIの事業は非常に多様です。一見すると「何の会社なんだろう」と思われるかもしれませんが、先ほどお話しした「豊かなコミュニケーションを広げて、世界を幸せな驚きで包む」という軸に沿って、多様な事業を展開していると考えていただければと思います。

具体的には、デジタルエンターテインメント事業、スポーツ事業、投資事業、そしてライフスタイル事業として家族アルバム「みてね」があります。また、最近リリースしたSNS「mixi2」なども含まれます。
有名なところでは「モンスターストライク」があります。累計売上高は1.3兆円を超えており、日本だけでなく台湾、香港・マカオにも提供しています。世界の累計利用者数は6,400万人を突破しています(2025年5月時点)。
一方、みてねは7言語に対応し、175の国と地域にリリースしています。海外ユーザー比率はどんどん上がってきており、40%を超えています。世界の累計利用者数は2,500万人を突破しました(2025年1月時点)。

今回、Notion様から枠をいただいていることもあり、MIXIとNotionの協業事例についてご紹介させていただきます。
具体的には、YouTubeでのプロモーションビデオ制作、Notion Japan公式メディアでの事例紹介記事掲載、ウェビナーでの講演、各種カンファレンスでの登壇など、多岐にわたって協業させていただいています。これらの資料やリンクは、今回の発表スライドにも掲載しておりますので、詳細にご興味のある方はぜひご覧ください。

みてねで大切にしていること
平田:みてねで大切にしていることについて、「2つのDXとDX Criteria」「仮説検証の3本柱、透明性」「透明性のための取り組み」の3つの観点からお話しします。
2つのDXとDX Criteria
まず、DX Criteriaについてご説明します。これは日本CTO協会が監修・編纂している、企業のデジタル化とソフトウェア活用のためのガイドラインです。チーム、システム、データ駆動、デザイン思考、コーポレートなどの多角的な視点から、328の具体的項目に体系化したものです。
例えば「システムを開発する1チームの構成人数は、3人以上10人以下か(ピザ2枚ルール)」といった、非常に具体的な項目が328個あります。オープンに公開されており、他社との比較も可能になっています。
DX Criteriaの目的は超高速な事業仮説検証能力を得ることです。そのために「2つのDX」が重要だと考えています。
1つ目は従来のデジタルトランスフォーメーション(企業のデジタル化)です。2つ目が開発者体験(Developer eXperience)で、開発者にとって働きやすい環境と高速な開発を実現するための文化・組織・システムが実現されているかを意味します。
この2つのDXは、経営にとって人・モノ・カネ・情報が一体であるように、一体で実現されるべきものです。
私たちはDX Criteriaを使って、みてねの組織のDeveloper eXperienceを評価しました。結果は、みてねが74.53%、DXリーダー企業平均が70.47%、一般的な37社平均が51.81%となっています。
ただし、スコアの高さを自慢したいわけではありません。このようにテーマごとに分析できるので、課題を見つけるのに便利だということをお伝えしたいのです。

現在の課題には、バリューストリーム、部門間タスクマネジメント、カナリアリリース、SLO、ユーザーインタビュー・定性調査などがあります。この2年ぐらいはガッツリと解決に取り組んでおり、事業フェーズに応じて適切に優先順位をつけて80点ぐらいを目指しています。
仮説検証の3本柱、透明性
私なりの考えですが、世の中ほぼ全てが不確実であると捉えています。不確実と戦うためには、アジャイルや仮説検証が重要です。つまり、ほぼ全てのシチュエーションにおいて、アジャイルと仮説検証をきっちりやる必要があります。
そこで、この3本柱を大切にしています。透明性、検査、適応というスクラムの3本柱です。
透明性がなければ正しい検査ができないし、正しい検査ができなければ正しい適応ができない。最初の透明性からしっかりと確保して柱を立てて太くしてから、正しい検査をする必要があります。
透明性とは、正しいデータがちゃんと取得できているか、仮説検証のための情報がちゃんと集まっているか、それが解釈できるかということです。これができて初めて正しい検査ができ、その後に正しい適応ができる。透明性が一番最初のスタート地点なんです。
透明性の強化がアジャイルな組織や仮説検証に有効であるということは、AIにも圧倒的に関わってくる重要なことです。
AIも皆さんご経験があると思いますが、コンテキスト情報がなかったり、ナレッジがない状態で使うと、いまいち良いアウトプットが出せません。AI自体もやっぱり透明性の上に立たせる必要があります。
透明性を支える基盤を太くするということは、人もAIも正しく検査し、正しく適応するところを支える重要な基盤なのです。

VUCA時代における変化の激しさ、不確実性の増大に対して、従来型のヒエラルキー組織だけでは柔軟に対応できなくなっています。組織の透明性があることで、メンバーが自ら考えて動ける自律性が引き出されるのです。
従来型組織と自律的組織では重力が違います。情報がクローズドかオープンか、意思決定が上司承認待ちか現場で即断か、新しい挑戦が萎縮しやすいかチャレンジが生まれるか。こういった重力の差が出てきます。
私が10数年前にスクラムマスター研修で学んだ、自律的組織の3つの条件をご紹介します。
まず明確なゴールがあることです。ゴールが明確だからこそ、各メンバーは自分の行動がゴールに貢献するかどうかを自ら判断できます。
次に0.1秒以内に現状を把握できること。組織の徹底的な透明化が必要で、意思決定に必要な情報に誰もがリアルタイムで簡単にアクセスできる状態です。現状が分からなければ、ゴールに向かって正しく進んでいるか判断できません。
そして境界線が明確であること。各メンバーが何について意思決定する権限を持っているかという権限の範囲と、守るべきルールや制約条件がはっきりしている状態です。
文化は組織構造に従うというクレイグ・ラーマンの法則があります。職能で区切られたサイロ化した従来型組織構造から、顧客価値を提供するために必要な人・モノ・カネ、情報(透明性)がチームにある状態のフィーチャーチームへ転換することで、自律的な組織が生まれやすくなります。

透明性のための取り組み
透明性をブレイクダウンすると、3つの課題があります。私の経験上、10名を超えたあたりから急激にこれらの課題が大きくなってくる感覚があります。
まずOpennessの実現です。これは「情報がない」を解決するもので、情報をオープンに発信する場がなかったり、習慣がなかったりする場合の課題です。
次にSummaryの実現。30人ぐらいになってきたら急激に情報が爆発して、どの情報がどこにあるのか分からない状況になり、「情報を解釈する時間がない」という問題が出てきます。
そしてRecognitionの実現。30〜50人ぐらいになってくると専門家がいっぱい入ってきて、「情報解釈のための知識がない」という課題が出てきます。

大前提としてオープンな情報共有カルチャーが大切ですが、それだけでは情報がバラバラになってしまいます。メモ共有、タスク管理、プロジェクト管理などのサービスが分散していました。
そこで、みてねでは流れの速いメモも、タスク管理も、振り返りも、プロダクトマネジメントも、議事録も、すべてNotionで一本化しました。人はNotionに訪れれば必要な情報が見つかる状態を実現し、情報を構造化できるNotionの特性により、人が自律的に直感的な情報配置ができるようになりました。
Notionにない機能であるSlack、GitHub、Google Workspace(みてねでは今後対応予定)との連携は、Notion AIによってコネクトしています。これにより、散らばっていた情報もNotion AIを使えば取得できる状態になっています。
Notion AI ミーティングノートは、ツールを選ばずGoogle Meet、Teams、Zoomすべてに対応し、リアルタイム翻訳やPC音声ソース対応も可能です。最終的にAIが作成した議事録がNotionに保存され、NotionのAIが賢くなるループができています。
Notion AI Deep Researchでは、Slack、GitHub、Google Drive、Notionの全関連情報ソースをリサーチして詳細なレポートを作成できます。例えば、みてねのユーザーフィードバックを3年分まとめるといったことが可能です。

人とAIの共存
平田:これまでお話ししてきた透明性の話は、組織マネジメントするレベルでAIが進化しても、透明性の土台がなければ意味がないという考えに基づいています。今後、AIエージェントの時代になったときに、人とAIの共存をどう考えるかについてお話しします。
まず重要なのは、MCPサーバーやA2Aに頼るだけではAIのためにしかならないということです。ナレッジベースの透明性を強化することで自律的組織のためになる。これが今回お伝えしたい核心的な考え方です。
AIにはMCPサーバーやA2Aといった技術がありますが、それだけでは不十分です。人が共存することを考えた場合、人も透明性の上に立ち、AIも透明性の上に立つという環境を整える必要があります。こうした考えのもとで透明性の柱を立て、そこから仮説検証、検査・適応を行うことが重要です。
AIエージェントの時代が到来しても、人が自律的に動くためには、この透明性を強化して自律的組織をつくっていくことが不可欠だと考えています。

今後AIエージェントがどのように進化し、業務をどう代替していくかを考察してみました。
現在、バックエンド、フロントエンド、プロダクトデザイン、UXリサーチ、プロダクトマネジメントなどの職種において、それぞれに抽象的な業務から具体的な業務、細かいタスクから大きなタスクまで様々な作業が存在します。
AIによる代替は、具体的な業務から順次進行しています。現在でも、バグ修正やバックエンドの技術的負債返済といったタスクは、Devinなどのツールによってプルリクエストの作成まで自動化されています。
次の段階では、フロントエンド開発も含めた統合的な開発が可能になります。ただし、これにはデザインシステムの整備が前提となります。これも透明性の一環ですが、デザインシステムを適切に整備し、FigmaのMCPなどへのアクセス環境を整えることで、AIエージェントがそこにアクセスして開発を行う世界が実現しつつあります。
制度面ではまだ過渡期ですが、AIが担う領域は徐々に上位へ拡大していきます。フロントエンド開発に加え、デザインシステムが整備されていればプロダクトデザインもAIが担えるようになり、さらにプロダクトマネジメント業務も将来的には可能になると考えられます。
このように、具体的な業務からAIが代替していく流れは明確に見えています。

人とAIが共存する環境において、人間が担うべき領域は明確になってきています。それは抽象的でクロスファンクショナルな領域の業務です。具体的には、異職種とコラボレーションしながらゴールを策定し、何を実施するかを決定し、AIをマネジメントすることです。
エージェントの性能向上により、AIが扱える業務の抽象度は継続的に上がっています。その結果、人間が担うべき業務は必然的に上位の抽象的な領域に移行します。興味深いことに、これらの業務はアジャイルなカルチャーおよびスクラムチームの構造と高い親和性を持っています。
Notionと歩む未来
平田:最後に、Notionとの協業を通じて見えてきた未来の可能性についてお話しします。
Notionは、人・組織がプロジェクトをこなすための情報管理機能が極めて優れており、網羅的です。いわゆるオールインワンの特性により、情報をひとまとめにできる点が最大の強みです。
また、情報を構造化して保管することができ、人・組織が直感的に「どこになんの情報があるか」「どこになんの情報を保管すべきか」がわかる設計になっています。実際にみてねにNotionを導入した際、私はトップラインの情報構造だけを作成しましたが、その後は各メンバーが直感的に認識して、指示なしに想定通りの情報構造を構築してくれました。
さらに、Notion AIにより、透明性の壁である「情報を解釈する時間がない」「情報を解釈する知識がない」という課題が解決できます。加えて、Notion AIが様々なサービスとコネクトできる拡張性も重要な要素です。
これからのAIエージェント時代において、私たちが期待する機能があります。まず、Agentic Workflow等によるワークフロー・AIエージェントの実現や、AIによる自動化です。そして、それらがNotion外部からも使えることが重要です。
また、Notion AIが透明性の上に存在できるため、Notion AIが人間の汎用ベストパートナーAIとなるよう、A2A等によるNotion AIのオープン化も必要になってくると考えています。
これらのアイデアについて、NotionのCPO(最高プロダクト責任者)とお話しする機会がありましたが、非常に賛同していただけました。近々開催されるNotionのカンファレンスなどで、どのような機能が実装されるのか、その思想はどんなものなのかを聞ける機会があるのではないかと思います。
今日の講演後も、Notionのブースで実際のデモを見ていただけますし、Notion社員の方々とも直接お話しいただけます。ぜひNotionブースにお越しください。


