CodeRabbit、実際どう? ─ チームで使ってわかったAIコードレビューの効果とコツ
合同会社DMM.com / mitohato14
テックリード / モバイルエンジニア
利用プラン | 利用機能 | ツールの利用規模 | ツールの利用開始時期 | 事業形態 |
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Pro | Pull Rrquestのレビューおよび要約 | 101名〜300名 | 2024年10月 | B to B B to C |
利用プラン | Pro |
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利用機能 | Pull Rrquestのレビューおよび要約 |
ツールの利用規模 | 101名〜300名 |
ツールの利用開始時期 | 2024年10月 |
事業形態 | B to B B to C |
導入の背景・解決したかった問題
導入背景
このレビューは以下の記事を元に作成しています。
https://developersblog.dmm.com/entry/2025/06/06/110000
ツール導入前の課題
当時は、コードレビューの質と効率に関して以下のような課題が顕在化していました。
- レビュアー側の課題
- 命名規則の揺れなど、細かい指摘に時間を取られがち
- レビュー対応に多くの工数がかかり、他作業の圧迫要因となっていた
- 細かい修正の繰り返しにより、設計や実装の全体像に目が向きにくくなる
- レビュー品質がレビュアーのスキルや経験に依存しやすい
- レビュイー側の課題
- PR(プルリクエスト)作成からマージまでのリードタイムが長い
- レビュー→修正→再レビューの繰り返しにより、対応が長期化しがち
- 共通の課題(レビュアー・レビュイー双方)
- コードレビューの品質にばらつきがある
- テストのシナリオ設計とテストコード実装の間で乖離が起きやすい
- 細部の見落としが後々のバグや不具合に直結するケースがある
- レビューのコミュニケーションが長引くことで心理的な負担が増す
どのような状態を目指していたか
- 細かい問題はツールによって事前に検出され、レビュアーの確認前に解決されている
- コードを人が見るだけでは気づきにくい不具合を早期に検出できる
- 属人性を排除し、安定したコード品質を担保できる体制の構築
比較検討したサービス
- PR Agent
- GitHub Copilot Review
比較した軸
- プロジェクト固有のルールに沿った指摘が可能かどうか
- 命名規則、アーキテクチャ上の制約、コーディングスタイルなど、プロジェクトごとのルールをどこまで反映できるか。
- 指摘内容の汎用性と実用性
- 使用している言語や開発対象の各プラットフォーム(モバイル・Webなど)において有効な指摘が得られるか。
- コストパフォーマンス
- 利用にかかるコストに対して、得られる効果のバランスは適切か。
選定理由
最終的に CodeRabbit を選定した理由は、以下の点において他の比較サービスよりもチームの開発スタイルや課題感にマッチしていると判断したためです。
- プロンプトを YAML で柔軟にカスタマイズできる
- プロジェクト(リポジトリ)単位はもちろんのこと、ファイルパスや拡張子ごとなど細かな粒度でもルールを定義できるため、レビューの粒度・観点を柔軟にコントロール可能。
- 例えば、特定のディレクトリ配下のテストコードだけ異なる観点でレビューしたい場合などにも対応可能であり、現実的な運用要件に即した設計となっている。
- ファイル単位での変更内容の要約機能
- PullRequestの規模が大きくなっても、変更点の全体像を把握しやすい。
- シーケンス図による変更内容の視覚化
- ロジックの流れや影響範囲を直感的に理解できるため、レビュー精度の向上に貢献。
- チャット形式での対話的なやり取りと学習能力
- 質問や意図確認への応答を通じて、ツールがフィードバックを学習し、チーム固有のレビュー観点により適応していく点も魅力的でした。
導入の成果
改善したかった課題はどれくらい解決されたか
CodeRabbit 導入後、細かな指摘がPR上で事前に解決されるケースが大幅に増え、 レビュアーがレビューを開始する時点で、すでにコードが一定水準までブラッシュアップされている状態が一般的になりました。
また、人の目では見落としやすいミスにも気づけるようになっており、特に以下のようなケースで効果が顕著に現れています。
- テストシナリオとテストコードの齟齬の検出
- 定型コードのコピー後の更新漏れの発見
これにより、マージ前に問題を発見・修正する精度が向上し、品質リスクの低減につながっています。
どのような成果が得られたか
CodeRabbit の導入によって得られた成果は、単なる指摘によるコード品質の向上にとどまりませんでした。
- シーケンス図やファイルごとのPR要約によって、コード差分の把握が迅速かつ直感的に行えるようになった
- 大規模な変更や複数ファイルにまたがるPRでも、全体の流れを短時間で把握可能
- 要約結果と実装意図のズレが明示されることで、設計や命名の誤りに早期に気づけるようになった
- 「AIがどう解釈したか」という視点が、レビュー精度の補助となっている
- チャット形式によるやり取りの履歴がツールに学習され、レビュー精度が継続的に向上している - 以前は「対応不要」と判断したAIの指摘をスルーしていたが、CodeRabbitではその判断が次回以降のレビューに反映されるため、対応方針を明示的に記録する文化が自然と定着しつつある
導入時の苦労・悩み
CodeRabbitは、リポジトリを登録するだけでPRの要約やレビュー機能が即座に動作し、初期設定に大きな手間はかかりませんでした。そのため、導入に関する技術的・運用的な障壁はほとんどありませんでした。
一方で課題となったのは、レビューの質を高めるために「どこまでルール整備を行うべきか」という判断でした。 特に、これまで明文化されていなかったコーディングルールやレビューポリシーが多数存在しており、それらをどのようにプロンプトに落とし込むかは悩ましいポイントでした。
現在も、有用な指摘が得られるように、チーム内でのルール整理やプロンプト設定の調整を継続的に行っている状況です。
導入に向けた社内への説明
上長・チームへの説明
導入を検討し始めた当時、社内ではAIを活用したプロダクト開発の効率化に注目が集まり始めており、 すでに「PR Agent」と「CodeRabbit」には社内利用実績がありました。
まずは両ツールの特徴や違いを整理し、比較表を含むドキュメントを作成し、上長やチームメンバーが理解しやすいように情報を可視化することで、議論の前提を揃えることを意識しました。
特に説明が必要だった点:コストと価値のバランス
比較する中で、特に焦点となったのは次の2点でした。
- PR Agent
- 従量課金でコストは抑えられるが、過去の導入時にうまく活用されなかった事例がある
- CodeRabbit
- 定額課金で一定のコストはかかるものの、機能面が充実しており、カスタマイズ性や対話性に優れる
この2者のどちらを採用するかが、最も説明・検討が必要なポイントだと感じ、コスト対効果や活用可能性の観点で改めて調査を行いました。
結果として、コストが低くとも活用できなければ意味がないと考え、CodeRabbitの方がチームにとって価値が高いと判断しました。
AIコードレビュー導入自体の妥当性検討
さらに、そもそもAIによるコードレビューを導入すること自体がチームにとって有益かどうかという点も議論しました。
そのために、過去にPR Agentを活用できなかった理由をメンバーからヒアリングし、以下の課題が明らかになりました。
- プロジェクトや開発対象の各プラットフォーム(モバイル・Webなど)特有のルールが定義しづらい
- AIとの対話(意図説明や再質問など)ができず、フィードバックが一方向
この2点はCodeRabbitによって解消できることがわかり、「再度AIレビューを導入する価値がある」と判断しました。
組織方針との整合性と導入決定
部署としても「AIを活用した開発効率の向上を推進する」という方針があったため、 CodeRabbit の試験導入に対する承認はスムーズに得られました。
実際に使い始めたところ、期待していた機能や柔軟性が有用だと感じられたため、 現在では正式にチーム内で継続利用しています。
活用方法
Pull Request作成時の運用フロー
日常的な開発においては、Pull Requestをドラフト状態で作成した段階からCodeRabbitによるコードレビューを実施しています。 CodeRabbitによる初期レビューを経て、指摘内容に対応したうえでPullRequestをオープンにし、チームメンバーへレビューを依頼するという運用にしています。
このフローにより、レビュアーが対応するタイミングではすでにコードが一定水準までブラッシュアップされており、より本質的な設計やロジックのレビューに集中できるようになっています。
細部の指摘も活用するレビュー方針
CodeRabbitには細かい点も含めて積極的にコメントするように設定しており、たとえ些細な違和感でもレビューコメントとして上がるようにしています。 その上で、最終的な対応判断は人間が行うことで、「一見些細だが実は重要」な見落としを防ぐ設計としています。
チーム全体でのルール共有方法
AIレビュー時に利用するコーディングルールは、.coderabbit.yamlに直接記述するのではなく、別ディレクトリに.mdcファイルとして管理しています。 これにより、CodeRabbitに加えてCursorなどの他のAIコーディングツールからも参照しやすくなり、 チーム全体で共通ルールに基づいた開発が進めやすい環境を整備しています。
よく使う機能
1. レビュー指摘機能
日々の利用において最も中心的に活用しているのが、CodeRabbitによるレビューコメントの生成機能です。 特に、チャット形式でのやり取りや、チームごとに整備したコーディングルールとの連携を通じて、 徐々にプロダクトに適した内容で指摘が行われるようになってきている実感があります。
Markdown形式などのドキュメントに対してもレビューをかけることができるため、設計資料や要件定義書に対してもAIによるフィードバックが得られる点が便利です
2. Pull Request 要約とシーケンス図
また、Pull Request全体の変更内容を要約する機能も重宝しています。 実装者から口頭で説明を受けることもありますが、CodeRabbitが生成するシーケンス図を用いることで、処理の具体的な流れを視覚的に素早く把握できるのは大きな利点です。
特に、処理の流れが複雑な変更や複数モジュールにまたがる修正内容を追う際に、シーケンス図による補助は非常に有効だと感じています。
ツールの良い点
- 導入が非常にシンプル
- リポジトリを登録するだけで基本的なレビュー機能が即座に動作し、初期導入のハードルが低い
- プロジェクト固有の知識を反映しやすい設計
- ファイル単位でレビュー観点を設定できるため、特定のディレクトリや拡張子に応じたルールの適用が可能
- .mdや.mdcなどのMarkdown形式で記述されたコーディングルールも参照可能なため、外部ファイルを通じてチームルールを反映できる
- コード差分以外も考慮したレビュー
- PR内の差分だけでなく、プロダクト全体のコードベースを文脈としてレビューに活用するため、より的確で実用的な指摘が得られる
- チャット形式での対話的なレビュー
- 指摘の意図を確認したり、補足情報を共有したりすることができ、レビューを通じたコードのブラッシュアップやチーム内の知見共有が促進される
- レビュー対象の柔軟性が高い
- コードだけでなく、Markdownなどの設計ドキュメントのレビューにも活用可能
- 実際に、要件定義書や設計資料にもレビューコメントが入り、曖昧な表現や抜け漏れの早期発見に役立つ
ツールの課題点
- プロンプト変更の即時反映性が低い
- プロンプト(設定ファイル)を更新した際の効果を実際のPull Requestで試してみないと確認できないため、細かい調整や検証を行うには少し時間と手間がかかる
ツールを検討されている方へ
CodeRabbitは、AIによるコードレビューを通じたプロダクト品質の向上だけでなく、Pull Request 要約機能やシーケンス図によってチームメンバーの理解促進にも寄与するツールです。 まずは一度使ってみることで、実際の効果を体感できると思います。
無料プランでも一定回数まではコードレビュー機能が利用可能なため、試験的な導入も容易です。 「まずは小規模リポジトリで試す」などの形で検証し、自分たちの開発スタイルに合うかを見極めていくことをおすすめします。
導入初期は、レビューの内容が浅く感じられたり、チームの期待とズレを感じたりする場面があるかもしれません。 しかし、.coderabbit.yamlやMarkdown形式のガイドファイルを通じてプロンプトを継続的に育てていくことで、チームやプロダクトに最適化されたレビューが得られるようになります。 まるで“レビュー専任の仮想メンバー”がチームに加わるようなイメージで活用できます。
さらに、公式のVSCode拡張機能も提供されており、ローカル環境でのコードレビューにも対応しているため、開発者個人のコーディング補助ツールとしても活用の幅があります。
今後の展望
CodeRabbitの活用を進める中で、チーム内では以下のような改善余地・運用上の課題が挙がっています。
- .yaml設定の検証が十分に行えておらず、ルールと期待する指摘内容とのギャップが残っている
- AIによる指摘内容に誤りや過剰反応が含まれるケースがある
- Pushごとに自動レビューが走ることで、コメント数が増え、煩雑さを感じる場面がある
- 人力レビュー中にCodeRabbitの指摘対応でコードが頻繁に変更され、レビューの流れが中断されやすい
特に重要だと感じているのは、実際の指摘内容をもとにプロンプトをブラッシュアップし、開発プロダクトやチームの特性に合った粒度・品質にチューニングしていくことです。 この継続的なチューニングは、今後も引き続き注力していく予定です。
また、社内を見渡すと「まだ導入できていない」「設定ファイルを用意していない」といった状態のチームも散見されます。 そういったチームへの支援やノウハウ共有を通じて、CodeRabbitをより効果的に活用できるようサポートしていくことで、組織全体のコードレビュー体験を底上げしていきたいと考えています。
所属しているプラットフォーム開発本部ではAIコードレビュー以外にもAIのプロダクト導入を進めています。
興味ある方は以下の記事も読んでみてください。
https://developersblog.dmm.com/entry/2025/04/18/110000
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