ノーコードツールからPlaywrightに移行して半年の振り返り
株式会社ニーリー / 宮内 新
メンバー / QAエンジニア / 従業員規模: 101名〜300名 / エンジニア組織: 51名〜100名
| ツールの利用規模 | ツールの利用開始時期 | 事業形態 |
|---|---|---|
| 10名以下 | 2025年1月 | B to B B to C |
| ツールの利用規模 | 10名以下 |
|---|---|
| ツールの利用開始時期 | 2025年1月 |
| 事業形態 | B to B B to C |
アーキテクチャ

アーキテクチャの意図・工夫
一つのPlaywrightリポジトリから複数の環境へテストできる構成にしています。
GitHub Actionsワークフロー
DEV、STG、Feature環境それぞれに専用のワークフローを用意しており、必要な環境を選択して実行できます。
結果通知
テスト実行後はSlackチャンネルに結果を投稿し、エラーシナリオや調査結果をスレッドで詳細に共有しています。また、スタンプによる実行種別の識別(リリース用 or 試行用など)を行っています。
Feature環境
PR毎に作成される一時環境に対してマージ前での品質チェックを実施しています。
この構成により、開発の各段階での早期問題発見を実現しています。
導入の背景・解決したかった問題
導入背景
ツール導入前の課題
導入前に使用していたノーコードのE2Eテストツールには、大きく2つの課題がありました。
まず、従量課金制のため実行回数に比例してコストが上昇する点。事業の成長と共にテストの実行頻度を上げたいニーズは高まる一方、コストを気にして実行を躊躇してしまう状況がありました。
そして、ノーコードツールでありながら、実際の運用ではコードでなければ対応できない場面が頻繁に発生する点。複雑なUIに対するロケータ取得、APIの取得結果による条件分岐など、ノーコードの枠組みだけでは対応しきれないケースが多く、「ノーコードのシナリオ+補完用のコード」という二重管理が生まれ、運用が煩雑になっていました。最初からコードで一元管理した方がシンプルで効率的なのでは?と感じていました。
比較検討したサービス
- Autify
- MagicPod
比較した軸
- 費用(月額などの固定費 + 実行回数による従量課金)
- 実行環境の可搬性
選定理由
ツール移行には相応のコストがかかりますが、以下の理由から長期的なメリットがあると判断しました。
| 比較項目 | 既存ツール | Playwright |
|---|---|---|
| 費用 | 月額などの固定費 + 実行回数による従量課金 | 無料(GitHub Actionsの実行コストのみ) |
| シナリオ作成の保守性 | GUIで簡単に非エンジニアの人も作成可能、複雑な操作はコードが必要となり二重管理が発生 | コードベースで一元管理が可能 |
| 実行速度 | 実行に時間がかかる | 実行速度が平均88%向上 |
| 並列実行数 | 10 | 8(Github Actionsのスペック次第) |
| 実行回数の制約 | コストを気にして実行を躊躇する状況(STG環境のみ) | コストを気にせず必要な時に全ての環境で実行可能 |
| 実行環境 | ブラウザ上で実行可能(クラウド実行) | テスト実行環境は自分たちで構築する必要がある |
移行を決断した理由
ランニングコストの削減に加え、コードベースでの一元管理による保守性向上、実行速度の大幅改善、環境の可搬性向上など、移行コストを払ってでも得られるメリットが大きいと判断しました。
導入の成果
改善したかった課題はどれくらい解決されたか
- 実行コストを抑えられ、必要な時にテストを回せるようになった
- 実行速度は平均で88%向上
- コードベースでの柔軟かつ一元的な管理を実現
どのような成果が得られたか
- 実行タイミングがリリース直前のみでしたが、追加で日次実行を実施しています。その結果、不具合の検知数が向上し、以前よりも効率的に開発改修を取り込めるようになりました。
- STG環境のみでの実施でしたが、環境の可搬性が向上したことにより、DEV、feature環境でも実施できる状態となりました。まだ運用を開始したばかりですが、feature環境でのQAテスト開始時に実行することで、開発改修のタイミングで早期に不具合を検知することを目指しています。
導入時の苦労・悩み
実装リソースの確保
コードベースのPlaywrightでテストを実装するには、当然ある程度のプログラミングスキルが必要なので、自分1人のリソースだけでは全テストの移行を完了させるのが難しい状況でした。実装スキルがあり、かつ業務ドメイン知識も把握しているメンバーにヘルプに来てもらうことで解決しました。
環境差分や並列実行によるフレーキーテストの増加
DEV、STG、Feature環境での挙動の違いや、並列実行時の競合状態によってテストが不安定になるケースが発生しました。タイムアウト時間の調整やロケーターの微調整を繰り返し行い、安定化を図りました。
既存ツールとの並行運用
移行期間中は両方のツールを維持する必要があり、かなり大変でした。並行運用をする場合は、移行のマイルストーンにはバッファを多めに持たせる必要があると思います。
導入に向けた社内への説明
上長・チームへの説明
マイルストーンを展開して、懸念事項などを共有
以下のようなスケジュール感、リソース面、アジリティ低下の懸念があったので、合意をとる必要がありました。
- 移行完了までの期間はどれくらいか
- その間既存ツールとの並行運用になるのか
- コードベースのツールへの移行で実装工数はどれくらい必要か
- チームメンバーのスキルで対応できるか
- 移行作業中に通常の開発業務が滞らないか
準備・検証・移行・安定化の各フェーズに分けたマイルストーンを作成し、各段階の目標と必要工数を示しました。バッファを持たせたスケジュールで、既存業務への影響を最小限に抑える計画にしました。
満たさなければいけなかった条件や求められた要件
移行にあたり、もとのツールにあった機能が問題なく再現できることが重要でした。 並列実行は必須の機能でした。リリース前の限られた時間内でテストを完了させる必要があるので、複数のテストを同時に実行できることが求められましたが、Playwrightは標準で並列実行に対応しており、この要件は問題ありませんでした。
特に課題となったのがメール検証機能です。既存のノーコードツールには便利なメール受信検証機能があり、多くのテストシナリオで利用していました。Playwrightでこの機能を再現できるかが移行の成否を左右するポイントでしたが、SREチームと協力し、DynamoDBに蓄積されたメールデータを参照する方式で実装し、既存ツールと同等以上のメール検証が可能になりました。
活用方法
- 日次の定期実行
- リリース前のデグレ確認
- 環境毎の動作確認
- 手動テストでコストが掛かる広範囲のリグレッションテスト
よく使う機能
- レポート機能
- デバッグ機能
ツールの良い点
- 実行速度が速い
- コードベースのため、API連携や複雑なロケータ取得など、多様なテストシナリオに対応できる
ツールの課題点
コードベースのため、基本的な操作は未経験者でも習得可能ですが、外部システム連携や複雑なロケータ取得には一定のプログラミングスキルが必要です。 デフォルトの実行速度が速すぎてしまう点も問題でした。速すぎて実際の人間の操作スピードと乖離してしまう点や画面の描画が追いつかず、ロケータが取れないエラーも発生しました。適切な待機処理を入れる必要があり、この調整には時間がかかりました。
ツールを検討されている方へ
判断軸を明確にしておく
「なぜこのツールを選ぶのか」「導入によって何を実現したいのか」この目的を明確にしておくと、プロジェクトの途中で迷った時に助かります。コスト、保守性、実行速度、現場ごとに重視する点は違うはずです。
事前検証は念入りに行う
既に他のツールを使用している場合は、現在の機能が新しいツールでも再現できるか確認が重要です。新規導入の場合でも、想定しているテストシナリオが実現可能かを事前に検証しておくことをお勧めします。
完璧を求めすぎない
最初から100点満点の設計を目指すと、時間がいくらあっても足りません。「まずは導入をやりきること」をゴールに設定し、段階的に改善していくアプローチが、結果的にツール導入の成功へ繋がります。
今後の展望
既存のツールから移行して半年程度経過しましたが、メンテナンスに手こずりながらも運用を継続しています。継続したことで、蓄積されたデータを基にフレーキーテストの傾向なども把握できるようになってきました。Playwrightをメンテナンスすることで、プロダクト側の作りの問題も発見することができ、とても良かったです。
今後は、LLMを用いてより広範囲のリグレッションテストの自動生成と自動保守を実現していきたいです。また、UIエレメントにテスト専用のdata-testid属性を付与し、プロダクトコードを修正することでテストの安定化を目指します。
株式会社ニーリー / 宮内 新
メンバー / QAエンジニア / 従業員規模: 101名〜300名 / エンジニア組織: 51名〜100名
SESエンジニアとして多岐にわたる現場での経験を積み、開発エンジニアからQAエンジニアへ転身。2024年10月にニーリーへ入社し、開発経験を活かしてQA/SET領域において従事。テスト自動化の推進や品質プロセスの改善に取り組み、プロダクト価値の向上を目指している。趣味は卓球で、競技を通じて集中力と持久力を養う。チーバくんの耳の出身です!
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