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【Databricksで実践するAI Agent開発】次世代のポートフォリオ・リスク分析AIエージェント
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【Databricksで実践するAI Agent開発】次世代のポートフォリオ・リスク分析AIエージェント

はじめに

金融業界は、市場のボラティリティとリアルタイムに増殖する非構造化データという二重の課題に直面しています。従来のバッチ処理的なリスク分析では、この複雑性に追随できません。自律的な推論とリアルタイムのデータ統合能力を持つAIエージェントこそが、この課題に対する必然的な進化です。本稿では、Databricks上で投資ポートフォリオのリスク分析を行うAIエージェントを構築する具体的なケーススタディを通じ、その実現可能性と優位性を解説します。

アーキテクチャの全体像

現代の金融リスク管理における課題は、単なるデータ量の問題だけではなく「統合のギャップ」にもあります。ポートフォリオの保有銘柄といった構造化データと、市場ニュースや企業開示情報などの非構造化データを、リアルタイムで統合・分析し、包括的なリスク評価を導き出すことが困難でした 。本ケーススタディで提示するアーキテクチャは、このギャップを埋めるために設計されています。

アーキテクチャの全体像は以下の通りです。



  1. ユーザーインタラクション: ポートフォリオマネージャーが、Databricks Apps 上でホストされたWebアプリケーションのチャット画面から、「サプライチェーンに関する最新ニュースを考慮し、私の保有するテクノロジー株ポートフォリオの主要リスクを要約せよ」といった自然言語で指示を出します。
  2. APIゲートウェイ経由のセキュアなリクエスト: アプリケーションからのリクエストは、まず AI Gateway に送信されます。AI Gatewayは、アクセス制御やレート制限等といったエンタープライズレベルのガバナンスを一元的に担う、セキュアなAPIエンドポイントとして機能します。
  3. エージェントによる推論とタスクプランニング: リクエストを受け取ったAIエージェント(Agent Framework で構築)は、ユーザーの意図を解釈し、タスクを達成するための一連の行動計画を立案します 。
  4. マルチツールによるデータ収集: エージェントは計画に基づき、複数のツールを並行して実行します。
    • ツール1: ポートフォリオデータ取得: Unity Catalog に登録されたPython関数を呼び出し、Delta Lakeに格納されているマネージャーの最新ポートフォリオデータを安全に取得します 。
    • ツール2: 非構造化データの検索: Vector Search を利用し、取得したポートフォリオ内の企業に関連する「サプライチェーン」に関する最新ニュースや開示文書を、意味的な関連性に基づいて瞬時に検索・抽出します 。
    • ツール3: 市場データの照会: MCP (Model Context Protocol) Server を介してGenie スペースにアクセスし、「該当企業の株価ボラティリティとCDSスプレッドの直近の動向は?」といった質問を自然言語で投げかけ、構造化された市場データを取得します 。
  5. 統合・要約と応答: エージェントは、3つのツールから得られた情報を統合・分析し、包括的なリスクサマリーを生成します。この応答は再び AI Gateway を経由し、安全にWebアプリケーション上のユーザーに返されます。

このアーキテクチャの真の価値は、単なる自動化に留まりません。それは「設計段階からのガバナンス(Governance by Design)」を実現している点にあります。金融機関にとって、セキュリティとコンプライアンスは後付けできるものではなく、システム設計の根幹でなければなりません 。従来の複数ベンダーを組み合わせたシステムでは、データベース、API、機械学習基盤それぞれに異なるセキュリティモデルが存在し、ガバナンスが分断されがちでした。

しかし、本アーキテクチャでは、Unity Catalogが単一のガバナンスプレーンとして機能します。ポートフォリオデータへのアクセス権限、Vector Search のインデックス、Genie が参照するテーブル、そしてエージェントが利用する関数(ツール)まで、すべてのデータとAI資産に対するアクセス制御が一元管理されます。これにより、あらゆる処理が監査可能となり、セキュリティギャップのリスクを根本から排除します。これは、規制の厳しい金融業界において、イノベーションとコンプライアンスを両立させるための極めて重要な設計思想です。

利用する Databricks の主要機能

この先進的なアーキテクチャは、Databricksが提供する各コンポーネントが、単なる機能の集合体ではなく、AIエージェント開発のライフサイクル全体を網羅するよう深く統合されているからこそ実現可能です。以下に、各主要機能の役割を説明します。



Unity Catalog:AIシステム全体のガバナンス基盤

Unity Catalog は、単なるデータカタログではありません。データ、AIモデル、そしてAIエージェントがツールとして利用する関数に至るまで、あらゆる資産に対する統一されたガバナンス基盤です。今回のケーススタディでは、ポートフォリオデータが格納されたテーブル、Vector Search が利用する非構造化ドキュメント、そしてエージェントが呼び出すデータアクセス用の関数、そのすべてが Unity Catalog によって管理されます。各資産について充実した監査やリネージ(来歴)の追跡が可能となり、金融機関に求められる厳格な監査要件とコンプライアンスを担保します。

MLflow:AIエージェントの品質と信頼性の担保

AIエージェントの回答をビジネス上の意思決定に利用するには、その品質と信頼性をいかに担保するかが最重要課題となります。MLflow は、この課題に応えるためのエンドツーエンドのLLMOps(大規模言語モデル運用)機能を提供します。特に重要なのが Evaluation 機能です 。本番環境へのデプロイ前に、想定される質問と模範解答からなる評価セットを用いてエージェントの性能を体系的にテストできます。さらに、「LLM-as-a-Judge」という手法により、別の LLM を評価者として利用し、エージェントの回答が正確か、根拠に基づいているか、ハルシネーション(事実に基づかない情報の生成)を起こしていないかを自動で採点します 。このような厳格な品質保証プロセスを通じて初めて、AIエージェントの出力を信頼し、業務に活用することが可能になります。

Agent Framework:カスタムAIエージェント開発のフレームワーク

Mosaic AI Agent Framework は、データサイエンティストや機械学習エンジニアが、複雑でカスタムなAIエージェントをコードベースで構築するための柔軟なツールキットです 。今回のリスク分析エージェントのように、複数のデータソースを動的に組み合わせ、自律的な推論を行うシステムには不可欠です。このフレームワークは、エージェントのコアコンポーネントである「プランナー(計画立案)」「メモリ(対話履歴の記憶)」「ツール(外部機能の実行)」を開発者が完全かつ容易に制御できるように設計されています 。開発者は LangChain などの使い慣れたライブラリを活用し、エージェントのロジック、ツールの連携、状態管理をきめ細かく実装できます。

Agent Bricks:ノーコードによる迅速なエージェント構築

Agent Bricks は、データアナリストやビジネスユーザーなど、プログラミングの専門知識を持たない利用者でも、GUI操作を通じて迅速にAIエージェントを構築・デプロイできるノーコードのアクセラレータです 。特に、RAG(検索拡張生成)を用いたナレッジアシスタントや、非構造化テキストからの情報抽出といった、業界で一般的なユースケースに最適化されています 。Agent Bricksは、Agent Frameworkの思想に基づいて構築されており、ノーコードでありながらも MLflow による動作の追跡や評価が可能で、透明性(ガラスボックス)が確保されています 。これにより、ビジネス部門が主導する迅速なプロトタイピングと価値検証を実現し、AI活用の裾野を大きく広げます。

Vector Search:非構造化データからインサイトを抽出

Mosaic AI Vector Search は、AIエージェントのRAG(検索拡張生成)能力を支える中核技術です。ニュース記事や決算報告書といった非構造化ドキュメントを取り込み、その意味内容を捉えた数値ベクトル(埋め込み表現)に変換してインデックス化します 。これにより、エージェントが「サプライチェーンの混乱」という抽象的な概念について情報を必要とした際、単純なキーワード検索では見つけられない、文脈的に関連性の高い情報を膨大なドキュメント群から瞬時に特定できます。

AI Gateway:モデルへのアクセスを一元管理

Mosaic AI Gateway は、そのアプリケーションとAIエージェント本体の間に位置する、一元化された「関所」の役割を果たします 。特定のユーザーからのアクセスのみを許可する認証、コストの暴走を防ぐための利用量制限(レートリミット)、監査目的での全リクエスト・レスポンスの記録(ペイロードロギング)など、本番運用に不可欠なガバナンス機能を提供します。この関心事の分離により、UIチームは迅速にアプリケーションの改善を繰り返すことができ、一方でプラットフォームチームは企業全体のAI利用状況を厳格に統制・監視することが可能になります。これは、成熟したエンタープライズシステムに不可欠なアーキテクチャです。

Databricks Apps: セキュアなAIアプリケーションのホスティング

Databricks Apps は、ポートフォリオマネージャーが利用するダッシュボードやチャットUIといった、Webアプリケーションを安全にホストし、提供するための環境です 。最大の利点は、データやAIモデルが格納されているのと同じプラットフォーム上で、ユーザーが直接触れるフロントエンドアプリケーションを構築・デプロイできる点にあります。これにより、データの移動に伴うセキュリティリスクやコストを排除し、Unity Catalogによる一貫したガバナンスの下で、エンドツーエンドのソリューションを迅速に提供することが可能になります。

最後に

ガバナンス(Unity Catalog)、開発(Agent Framework)、品質保証(MLflow)、そして本番提供(AI Gateway, Databricks Apps)まで、AIエージェントのライフサイクル全体を Databricks という単一のプラットフォームで完結させることで、複数のツールを繋ぎ合わせる際に生じる摩擦やセキュリティリスクを根本から排除します。

このアーキテクチャ・パターンは、不正検知、コンプライアンス遵守の自動化、アルゴリズム取引など、金融業界のあらゆるニーズは勿論、他業界にも応用可能な汎用的な青写真です。ぜひ、Databricks で次世代のインテリジェントなAIエージェントシステムの構築をご検討ください。


◆執筆:データブリックス・ジャパン株式会社・エンタープライズソリューション一部・菊川拓真

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