プロダクトマネージャーが実践するDatadog活用法 - 医薬品業界での定量・定性分析によるユーザー理解の深化
株式会社カケハシ / 梶村直人
メンバー / プロダクトマネージャー
利用機能 | 事業形態 |
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Session Replay、RUM、Dashboards | B to B |
利用機能 | Session Replay、RUM、Dashboards |
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事業形態 | B to B |
アーキテクチャ
アーキテクチャの意図・工夫
Musubi AI在庫管理は、AIによる高精度な需要予測により、これまで人的オペレーションに依存していた発注業務を半自動化し、薬局の業務効率化と医薬品の欠品・在庫リスク軽減を実現しています。 アーキテクチャの工夫内容はこちらに記載しています。
導入の背景・解決したかった問題
導入背景
※入社時点で既に導入済みのため、詳細な導入経緯は把握しておりません。本記事では、従来のSRE・エンジニア視点のDatadog活用事例とは異なる、プロダクトマネージャー視点での実践的活用法をご紹介します。
導入の成果
プロダクトマネージャーとして活用開始してから、以下の課題が大きく改善されました:
- ユーザー行動の可視化: 従来は想像に頼っていた薬剤師の実際の発注フローや小分け依頼のフローが明確になった
- データドリブンな意思決定: 定量データに基づく客観的な判断が可能になった
- エンジニアとの協働強化: 共通の指標でパフォーマンス改善の議論ができるようになった
具体的な成果:
- 発注効率改善: 発注画面で時間がかかる要因を特定し、打ち手やベストプラクティスの策定
- パフォーマンス向上: 発注画面の読み込み時間が平均2秒短縮
- 問合せやバグ対応効率化: ユーザーの操作ログ情報から原因特定をPdMで実施
導入に向けた社内への説明
上長・チームへの説明
※入社時点で既に導入済みのため、詳細な導入経緯は把握しておりません。
活用方法
日常的な活用シーン:
プロダクト改善ミーティング
- 開発テーマに関連する特定の行動数(RUM)や画面の操作録画(Session Replay)からユーザーの行動状況を共有
- リリースした機能の利用状況を定量的に共有し、データに基づく改善議論を実施
エンジニアとのパフォーマンス状況確認・改善議論
- 各ページのロード時間やクエリの実行時間を確認してパフォーマンス状況の確認・打ち手の検討
- パフォーマンス改善施策の実行結果を即日確認し、迅速なPDCAサイクルを実現
ユーザーからの問合せに対する迅速な調査
- ユーザーの操作ログ情報から問合せに対して正確な原因調査をプロダクトマネージャー自身で実施
- サポート部門との連携を強化し、問題解決時間を大幅に短縮
ユーザーインタビューでの深い洞察獲得
- 直前の画面操作(Session Replay)や操作ログをもとに、具体的な行動の背景や課題を詳細にヒアリング
- 定性・定量データを組み合わせた、より精度の高いユーザー理解を実現
よく使う機能
1. Session Replay(ユーザーの画面録画機能)による定性的ユーザー行動分析
医薬品業界における個人情報マスキング機能の重要性
AI在庫管理は薬局向けのシステムであるため患者情報を画面に表示しており、Session Replay機能の個人情報マスキング機能が必須です。この機能により、コンプライアンスを保ちながらユーザーの実際の発注動作を詳細に確認できています。
具体的な活用事例:
- N=1の深い分析による薬剤師の発注プロセスでのつまずきポイントや利用する情報の特定
- 想定外の操作フローの把握とユーザーヒアリングへの利用
2. RUMによる隠れたユーザーニーズの発見
小分け依頼のユースケース分析
データベースに記録されない「他店舗への医薬品小分け依頼」という特殊なワークフローについて、RUMを活用してユーザーの行動パターンを分析しました。RUM機能では、画面の遷移だけでなく特定のアクション(ボタンのクリック、検索条件の指定など)を設定してログを確認できるため、既存機能の改修による効果測定が可能です。
発見できたインサイト:
- 小分け依頼に至る画面遷移パターンの特定
- 緊急時と通常時での操作フローの違い
- 全ユーザーの発注時の検索条件、クリックしている情報、滞在時間などを定量的に分析することで、N=1の分析で得られた仮説(特定の検索条件と滞在時間の関係性など)の検証
3. 定量・定性分析の組み合わせによる深いユーザー理解
発注画面での詳細行動分析
- 定性分析(Session Replay): 個別ユーザーの詳細な操作パターン分析
- 定量分析(アクション測定): 全ユーザーのアクション数とパターンの統計分析
- 滞在時間分析: 各操作ステップでの時間を測定し、ボトルネックを特定
この組み合わせにより、N=1の深い分析とN=全ユーザーの傾向把握を同時に実現できています。
4. ファネル分析による業務フロー最適化
メインユースケースの可視化
CVRを求める一般的なプロダクトではありませんが、以下の分析でプロダクト改善に活用:
- 業務フローファネル: 発注画面、在庫一覧画面、融通画面などの推移分析
- ファルマーケット売却CVR: トップ画面の不動在庫金額表示からのCVR
5. パフォーマンス分析とエンジニアとの協働
スロークエリの特定と改善
プロダクトマネージャーとして、パフォーマンス問題がユーザー体験に与える影響を定量的に把握し、エンジニアチームとの優先順位議論を行っています。
具体的なアプローチ:
- スロークエリの特定と影響範囲の測定
- パフォーマンス改善施策の効果測定
- ユーザー影響度の高いパフォーマンス問題の可視化
ツールの良い点
1. プロダクトマネージャーでも扱いやすいUI/UX
エンジニアリング知識がなくても、直感的にユーザー行動を理解できるダッシュボードとビジュアライゼーションが優秀。
2. 医療業界に必須の個人情報保護機能
Session Replayの自動マスキング機能により、患者情報を保護しながら分析が可能。
3. リアルタイム性
リアルタイムでのログや画面録画が確認できるため、デモ薬局でのログの仕様確認、薬局の問合せへのスムーズな回答、直前の行動に対するヒアリングが可能。
4. 多角的な分析視点の統合
Session Replay、RUM、パフォーマンス測定など、複数の分析手法を一つのプラットフォームで実現。
ツールの課題点
1. 学習コストの高さ
プロダクトマネージャーが全機能を活用するには相応の学習時間が必要。最初は不明な機能の多さに圧倒されます。 まずRUM(Real User Monitoring)でどのような情報を取得できるかをエンジニアと連携して理解する必要があり、その上でプロダクトとして取得したい指標を決めてコードの設定が必要。
2. クエリ作成の難しさ
ログやRUMの分析を行う際に、そもそもDatadog上にデータがあるかや、どのようなクエリにすればよいかがわからず、時間がかかることが課題です。
Cursorなどのコード生成AIを使ってソースコードをもとにクエリを作成しても、Datadog特有の構文や最適化されたクエリの精度はあまり高くないのが現状です。
ツールを検討されている方へ
プロダクトマネージャーの方へのアドバイス
- 段階的導入を推奨: まずはSession Replayやファネル分析を触ってみてDatadogの操作に慣れた上で、細かなRUMの設定やダッシュボード作成に着手するのがおすすめです。
- エンジニアチームとの連携: 技術的な設定はエンジニアに依頼し、ユーザー視点での分析はPdMが主導する役割分担が効果的。特にパフォーマンス測定では時間がかかっているqueryがユーザーにとってどのような機能なのかをエンジニアと会話する必要があります。
事業形態別の効果的な活用方法
toCアプリケーションの場合
- Google Analyticsからの移行: まずはファネル分析などの既存分析をDatadogに置き換える
- アクション設定の拡張: 必要なactionを段階的に設定し、ファネルや指標に組み込んでいく
- ユーザー行動の詳細化: Google Analyticsでは見えない細かいユーザー行動を可視化し、定量的に分析
toB(業務効率化系)アプリケーションの場合
- 滞在時間分析から開始: 各画面の滞在時間が想定通りか確認
- Session Replay活用: 滞在時間が長い画面のSession Replayを見て原因を詳細分析
- KPI設計: 減らしたいアクション(無駄な操作)と増やしたいアクション(効率的な機能利用)を特定してKPI化
- 業務効率化の定量測定: 実際の業務効率向上を数値で追跡
共通の効果的なアプローチ
- スロークエリ対応: エンジニアチームでスロークエリを洗い出し
- 優先度判断: クエリの実行回数と実際のユーザー導線を確認して対応優先度を決定
- データドリブンな改善: 推測ではなく実際のデータに基づいた改善施策の実行
今後の展望
MCP連携による効率的なクエリ作成の実現
現在の課題であるクエリ作成の難しさを解決するため、MCP(Model Context Protocol)を活用したDatadog連携を検討しています。これにより、自然言語での質問から適切なDatadogクエリを自動生成し、より正確で効率的な分析が可能になると期待しています。
例えば「先週の発注画面で5秒以上かかったセッションを表示して」といった自然言語の指示から、最適化されたDatadogクエリを実行することを目指しています。
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目次
- アーキテクチャ
- 導入の背景・解決したかった問題
- 活用方法