Vertex AI Search + Agent Engine を活用した社内情報の横断検索ツールとマルチAIエージェントの作成
グリーホールディングス株式会社 / Sugawara
メンバー / 機械学習エンジニア / 従業員規模: 1,001〜5,000名 / エンジニア組織: 1,001〜5,000名
利用機能 | ツールの利用規模 | ツールの利用開始時期 | 事業形態 |
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LLMやAI関連のツール | 101名〜300名 | 2024年1月 | B to B |
利用機能 | LLMやAI関連のツール |
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ツールの利用規模 | 101名〜300名 |
ツールの利用開始時期 | 2024年1月 |
事業形態 | B to B |
アーキテクチャ

アーキテクチャの意図・工夫
このアーキテクチャ図は「横断検索イルカちゃん🐬」のもの。
複数箇所に散逸しているデータをBigQuery上に集約し、それらを Vertex AI Search のデータストアとして指定することで、社内情報の横断検索機能を実現した。
導入の背景・解決したかった問題
導入背景
ツール導入前の課題
- 社内情報のデータサイロ化。
- これを解決するために Google Cloud Search を利用していたが、柔軟なカスタマイズができなかった。
どのような状態を目指していたか
- LLMを用いた検索結果の要約の提示機能を備えた、社内情報の横断検索ツールの社内展開。
- ここから発展させ、AIやLLMの潮流に乗った、より高度なAIエージェントやチャットボットの社内展開。
比較検討したサービス
- Amazon Bedrock
- Azure OpenAI Service
比較した軸
- 費用
- 将来性
- AIが利用するデータの所在
選定理由
AIが利用するデータの所在。社内の情報が散逸している問題について、少なくとも情報システム部内では Google Cloud 上に全体的に寄せていこうと考えていた。であれば、同じクラウドベンダー内のサービスを利用するのが、各サービスの連携が容易になって良いと判断した。 また、2024年の導入時点では Google 製の LLM は他社に比べて性能があまり高くなかったものの、長年の検索エンジンの提供や機械学習関連の研究の実績を踏まえ、将来的に改善されるだろうと期待した。
導入の成果
改善したかった課題はどれくらい解決されたか
カスタマイズの柔軟さについては改善され、社内の主要なデータソースと接続できるようになった。また、情報をより自由な形で提供することが可能になった。
どのような成果が得られたか
Vertex AI を活用した社内向けサービスは2つ展開した。一つは2024年10月から2025年6月まで提供していた「横断検索イルカちゃん🐬」。このサービスは社内情報の横断検索と、検索結果の要約文を提示するもので、主に Vertex AI Search を用いて開発した。
もう一つは2025年6月から、「横断検索イルカちゃん🐬」の後継かつ「社内FAQ Bot アンリちゃん」の後継として提供している「バーチャルサービスデスク イルカちゃん🐬」。このサービスは Agent Development Kit (ADK) 製の AI エージェントとのチャットによる対話を可能にするもので、ADK 製のエージェントのデプロイ先として Vertex AI Agent Engine を利用している。また、各 AI エージェントの中では RAG のために Vertex AI Search を引き続き利用している。
「横断検索イルカちゃん🐬」は、リリースから提供終了までの8ヶ月間で806人からの6570個の社内の質問に回答した。
「バーチャルサービスデスク イルカちゃん🐬」はリリースから2週間しか経っていないものの、137人からの490個の質問に回答している。
導入時の苦労・悩み
機能改善のペースが早い
Vertex AI Search を用いて社内向け横断検索システムを開発していた頃(2024年中旬)は特に機能改善のペースが早く、毎週新たな機能が追加されていた。
これ自体は歓迎されるべき点なのだが、自前で実装した後に Vertex AI Search 側に同等の機能が追加され、後付けで車輪の再発明となってしまうことが多かった。
一方、「これは近々実装されるだろう」と思って自前実装を回避していた機能がなかなか実装されず(例: Confluence や Box とのデータコネクタ)、開発が滞ることもあった。
安定性
LLM や AI エージェントといった新しい技術を扱っているためか、クラウドサービス起因の障害が発生することが少なくない。
例えば 2025-07-09 には、Vertex AI Agent Engine 上にデプロイしている全ての Agent Development Kit 製の AI エージェントが機能しなくなり、その状態がおよそ1日続いた。
導入に向けた社内への説明
上長・チームへの説明
積極的にプロトタイピングを行い、このツールを利用することでどんなことが可能になるかを実際に触ってもらいながら紹介するようにした。 新たなサービスを作るというよりは、現状で提供している社内向けサービスを内製化して置き換えるという形で説明し、Vertex AI を活用することでコストの最適化ができるとアピールした。
活用方法
チームでほぼ毎日利用しながら、「バーチャルサービスデスク イルカちゃん🐬」に参加しているAIエージェントの新規開発や機能改善を行っている。
よく使う機能
- Vertex AI Search
- RAG を行う際は基本的にこれを使っている。AIエージェントを開発する場合、 Vertex AI Search との連携を可能にするビルトインツールが ADK 内で提供されており、これを使えばデータストアのリソースIDを指示するだけで RAG が実現できるので便利。
- ビルトインツールの活用については自社の情シスブログの法務の専門家「クロネコちゃん」についての記事 でもご紹介しています。
- Vertex AI Agent Engine
- ADK 製マルチエージェントAIのデプロイ先。フルマネージドなサービス。開発途上ということもあり、Google Cloud 上の UI から閲覧したり操作したりといった機能はあまり充実していない。そもそも1ヶ月前には UI が存在せず、API経由での操作のみが可能だった。
- Vertex AI Gemini API
- Gemini モデルを利用する際は、Vertex AI の Gemini API を利用している。
ツールの良い点
- 高機能な AI 関連の機能がフルマネージドで利用できる
- Vertex AI Search の検索精度の高さ
- 課金形態がユーザー数に応じたサブスクリプションではないので、大規模な組織でも低価格から導入できる
ツールの課題点
- 機能改善や仕様変更に追いついていくのが大変
- 安定性に難があるかもしれない
ツールを検討されている方へ
これからのマルチエージェント AI 時代は Google が牽引していくと考えるなら、Google のサービスに乗っておくのが良いだろうと思います。
今後の展望
Agent2Agent (A2A) プロトコルを用いた複数の AI エージェント同士の連携や、単なる情報提供に留まらない、人間の作業の肩代わりができる AI エージェントの構築を目指しています。 ゆくゆくは、各部署ごとの専門家(AI エージェント)が Vertex AI Agent Engine 上に展開された状態を実現し、AI エージェントを介した部署間の情報共有や連携を行いたいと考えています。
各プロジェクトの詳細や今後のアップデートについては、最近開設した情シスブログでも発信していく予定です。よければこちらもご覧ください。
グリーホールディングス株式会社 / Sugawara
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目次
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- 導入の背景・解決したかった問題
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