そのデータ本当にあなたのものですか?〜データスペースによるデータ管理の革命とその可能性〜
みなさん、データスペースという言葉を聞いたことがあるでしょうか?筆者は、最近データスペースの研究開発や企画をやっていますが、仕事で関連する以外のエンジニアからは、悲しいことに「データスペースってなに?」という反応がほぼ100%返ってきます。また、以前データスペース関連のニュースリリースを出した際に、Webメディアにニュースで取り上げて頂いたのはいいのですが、「データベース」関連のフォーラムで取り上げられており、言葉を聞いただけでは、 「データベースの親戚?」 と勘違いされているような状況だと感じています。
その一方で、みなさんが情報処理技術者試験などでお世話になっているIPAでは、デジタル基盤センターの中でデータスペースの普及推進を行ったり、デジタル庁が発表したデジタル社会の実現に向けた重点計画の中でデータスペースについて言及されるなど、政府機関の中で注目が高まっています。
ここでは、現在のシステムの抱える課題についてお話しながら、データスペースについての誤解を解いていきたいと思います。
◆プロフィール
岡本隆史(おかもと たかし)
NTTデータグループ 技術革新統括本部
先進技術のスペシャリストとして,クラウド・OSSを中心とした雑多な技術検証、導入支援を実施。
最近はデータスペースのスペシャリストとして、海外エンジニア、アセット開発などを支援。
Gaia-Xの提供するトラストフレームワーク「Gaia-X Digital Clearing House」を日本・APACにおいて初めて実装すると共に、品質向上、グリーンソフトウェアに基づく炭素排出量に考慮した実装の功績により、Gaia-X Developerに日本で初めて認定。
また、@ITのAIの新コーナー4AI にて、生成AIの記事を連載中。
そのデータ、本当にあなたのものですか?〜中央集権型サービスの弊害〜
データベースと語呂が似ているので、勘違いされやすいデータスペースですが、むしろ、データベースの逆だと思ってください。データベースは、中央サーバにデータを集約して管理します。
中央集権型のアーキテクチャでは、集中管理されたデータベースやサービスが破られたり、破壊的行為により壊されるとデータが流出したり、失うというリスクに晒されています。もちろん、実際のシステムは冗長化され、堅牢なセキュリティの下で運用されているので、そのようなリスクは少ないですが、それでも0とは言いきれません。また、サービスの終了やアカウントのバンによるデータ損失のリスクにも晒されています。
例えば、SNSなどを利用する際に、アカウントをバンされサービスが利用できなくなることもあります。SNSアカウントが利用できなくなると、今まで書き溜めた記事や写真にアクセスできなくなり、フォロワーなどの知人との連絡が取れなくなり、更には連携した他のアプリケーションにもログインできなくなります。
任天堂が2024年スーパーマリオメーカーのオンラインサービスを停止しました。これにより、沢山のユーザが公開した約100万にも上るステージは全て利用できなくなりました。
現在、クラウドがなくてはならない世の中になってきていますが、一旦クラウドサービスが障害を起こすと、その影響範囲は計り知れなくなってきています。メールは読めなくなり、オンライン会議もできなくなり、クラウドストレージにアクセスできず、資料の閲覧や作成もできなくなり、クラウドに依存した生活では、もう仕事を諦めて呑みにいくしかありません。データスペースの考え方は、クラウドに対するアンチテーゼでもあります。
このように中央集権的なデータ管理・サービスでは、サービス運営者の意向により、アカウントが利用不可能になりアクセスできなくなったり、障害によるサービス停止・データ消失、あるいはサービスそのものがなくなり、データが失われると言った脅威にさらされることになります。
データの本当の所有権を取り戻せ!〜分散型アーキテクチャとデータスペース〜
中央集権的な管理に対して、データスペースは分散型のアーキテクチャでデータを管理します。データは通常、データ提供者が保持しており、そのデータをコネクタと呼ばれる通信モジュールを利用してコネクタ間でデータの交換を行います。
データスペースでは、あるデータ提供者のデータを管理するデータベース(あるいはクラウドストレージ)に障害があった場合でも、影響範囲は限定的され、それ以外のデータ提供者は影響を受けることはありません。また、サービスが終了や垢バンなどによる、サービスの利用継続が不可能などの問題からも開放されます。
また、システムを開発・提供する側としては、データをユーザ(企業・組織)側で保持することにより、各システムのスコープを絞ることができ、モノリシックなサービスを分割しマイクロサービス化を行うようなアプリケーションのモダナイズに似たメリットを享受することができます。更にはデータスペースによる標準化されたデータ交換方式により、データ連携部の開発をスムーズに行うことができます。これらのメリットにより、ユーザ毎のシステム開発速度が向上し新規ビジネスに柔軟に対応できるようになり、また、各システムがデータ利用者・提供者側に寄ることにより、よりユーザの要件に適合した無駄のないシステム開発が可能となります。
データスペースは、中央集権型アーキテクチャの問題を解決するだけでなく、サステナビリティやデータ主権といった、以下のような新たなユースケースでも注目されています。
サステナビリティに必要な企業間連携としての注目
企業間連携のプラットフォームとしてもデータスペースは注目されています。背景として、ESGやSDGsの観点から、投資家・顧客・市民・政府が、企業に対して、環境や人権の問題に対する取組を要求し始め、自動車をはじめとする様々な製造業やエネルギーなどの業界で、組織・企業・国を超えてデータの共有が必要となっています。
例えば、製品ライフサイクル全体にわたる 使用物質の種類・CO2排出量・資源廃棄量などを製品単位に集計して開示するためには、自社以外も含め、原料採取~加工~製品使用~廃棄~リサイクルの各社のCO2排出量の情報開示が必要です。このような企業・組織間のデータ連携基盤としても、データスペースは注目されています。
データ主権と国際連携を実現するプラットフォームとして注目
データ主権は、文脈により解釈が異なりますが、データがどの国に存在するか、その国の法律や規制に従うべきという考え方で、データの管理、保護、プライバシーの観点から重要です。データスペースの文脈では、データの提供可否やデータの存在の公開可否を制御する、という意味でも利用されます。この「データ主権」を実現するプラットフォームとしてもデータスペースは注目されています。その一例としてデータの国際連携があります。
近年、データを処理・保存する場所の国・地域を限定する考え方が広まっており、有名なものとしてEU(欧州連合)のGDPRがありますが、また、日本、中国、ロシア、インドネシア、ブラジル、カナダ、ドイツ、韓国、オーストラリア、トルコ、フランス、サウジアラビア、南アフリカ、アラブ首長国連邦、ナイジェリア、アルゼンチンなどの国でデータの国外への持ち出しの規制法案が出されており、市民情報や国内で収集した情報など、特定の条件下の情報の国外持ち出しが制限されています。そのような場合、公開・交換可能な条件(ポリシー)を制御しながら安全にデータ交換することが求められます。
近年戦争や紛争がニュースを騒がせていますが、経済安全保障や事業の継続性という背景からもこの流れはより広がると思われます。

で、データスペースって何?
データスペースとは、複数の組織が互いに信頼性を確保しながらデータを自由に流通させるための制度と、それを実現する技術を組み合わせて基盤を構築し、新しい経済・社会活動のための空間を形成する取り組みです。データスペースは、1つのシステムにデータを集約管理するのではなく、複数の組織が持つシステム同士を繋げる仕組みを提供します(参考)。
データスペースについては、欧州と日本で状況が少し異なるので、それぞれもう少し詳しくみていきます。
欧州の動向:Eclipse Foundationによる標準化とオープンソースによる開発
みなさん、Eclipse Foundationという組織をご存じでしょうか?Eclipse Foundationでは、Eclipse IDEと呼ばれる統合開発環境を提供しており、主にJavaによる開発を中心に広く使われていました。また、Oracleの(元々はSunの)Java EEがJakarta EEとしてコントリビュートされるなど、Java開発にはなくてはならない存在でした。最近はIoT向けの開発を行うEclipse IoTやDigital Twin領域のソフトウェアも開発されています。Eclipse Foundationでは、データスペース関連のソフトウェアもOSSとして開発されたり、データスペースの仕様そのものの策定も進んでいます。現在、下記のようなデータスペース関連の取り組みが進められています。

1. EDC(Eclipse Dataspace Components)
データスペースを実装するための様々なコンポーネントを提供しています。その中でもEDC Connectorはデータスペースに接続するためのコンポーネントで、後で説明するEclipse Foundationで標準化しているDSP、DCPをサポートした中核のプロダクトとなっています。その他、カタログを提供するFederated Catalogやデータスペースに参加するためのクレデンシャルを管理するIdentity Hubなどのコンポーネントが提供されています。
2. Eclipse Tractus-X
データスペースのエコシステムの一つとしてCatena-Xと呼ばれる主に自動車業界を中心とする企業が参加する団体があります。Tractus-Xでは、Catena-Xで利用できるデータスペースコンポーネントをOSSで提供しています。
3. DSP(Eclipse Dataspace Protocol)
データスペースの中でコネクタ同士が通信するプロトコルです。もともとIDSA(Internet Data Space Association)で策定されていましたが、Eclipse Foundationに移管され、現在はEclipse Dataspace Protocolとして仕様の策定が継続されています。
4. DCP(Eclipse Dataspace Decentralized Claims Protocol)
データスペース内でのIDの検証と信頼構築を、中央機関に依存せずに実現するプロトコルです。複数のトラストアンカー(最終的な信頼のよりどころ)より参加者は独立して資格をサポートし、これに情報を管理および検証できます。
日本の動向: ウラノスエコシステム
ウラノス・エコシステムは、日本の経済産業省(METI)と情報処理推進機構(IPA)が主導するデータ共有に向けた取り組みです。ウラノス・エコシステムのもと、業種横断的なシステム連携の実現を目指し、人流・物流DX及び商流・金流DXに先行的に着手しています。
人流・物流DXについては、人手不足に伴う物流クライシス・人流クライシスや災害激甚化等の社会課題の解決や新産業の発展を実現するため、人や物の移動に関するニーズに応じて、自動運転車やドローン、サービスロボット等の自律移動ロボットが行き交い、人や物の流れが最適化する仕組みの構築を目指しています。また、こうしたモビリティが安全かつ経済的に運行できる仕組みを構築するべく、運行環境を仮想空間に再現するデジタルツインとして「4次元時空間情報基盤」の構築に関する取組を進めています。
商流・金流DXについては、契約から決済にわたる取引全体をデジタル化しアーキテクチャに沿ったデータ連携を可能とすることで、グローバルにサプライチェーン全体を強靱化・最適化してカーボンニュートラルや経済安全保障、廃棄ロス削減、トレーサビリティ確保等の社会課題の解決を目指します。また、同時に中小企業やベンチャー企業を含めた様々なステークホルダーが活躍して産業が発展する社会の実現するため、蓄電池・自動車を先行事例に、「サプライチェーンデータ連携基盤」の構築に関する取組を進めています。
図5:ウラノス・エコシステムの全体像
参考: Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム) (経済産業省)
データスペースを支えるアーキテクチャ
データスペースの概要
ここでは、データスペースによるアーキテクチャをEDC/Eclipse Data Space Protocolで採用されているアーキテクチャを例にあげてご紹介します。まず、データスペース運営者、参加者が持つサービスレベルのコンポーネントとして次のようなものがあります。
- 参加者(実装: Connector)
- データスペースに参加し、他の参加者に対して情報の公開、及び取得を行います。
- 資格証明発行者(実装: Credential Issuer(Issuer Server))
- Verifiable Credentialを参加者に発行します。また、Vertifiable Credentialを証明した公開鍵をDIDドキュメントに含め公開し、参加者が他の参加者の証明書を検証できるようにします。
- カタログ提供者(実装: Federation Catalog)
- 複数のデータスペースのデータのカタログを提供します。分散型アーキテクチャでは、データのありかを探すのが困難ですが、Federation Catalogの仕組みにより、情報を見つけやすくします。

Verifiable CredentialとDID〜データスペースで利用される認証方式
ここでは、EDCのサンプルでも利用している、Verifiable CredentialとDIDを用いた認証方式について説明します。参加者は、参加者同士のDIDドキュメントとVPを用いて相手を検証します。
DID(Decentralized Identifier:分散型識別子):
- 中央IdPに依存しない分散型のIDです。ブロックチェーンが利用されたり、URLが利用されます。EDCのサンプルでは、URLを利用しています。
DIDドキュメント(Decentralized Identifier Document:分散型識別子):
- DIDで指定された場所にアクセスすると取得できるJSONで記述されたドキュメントです。VCを検証するための公開鍵やサービスのエンドポイント情報などを含みます。
VC/VP(Verifiable Credential/Verifiable Presentation: 検証可能な資格情報/検証可能な資格証明):
- ユーザ・システムが持つ情報の正当性を証明するための証明書です。この証明書は信頼のおける発行者により発行されます。EDCのサンプルでは、データスペースのメンバーシップとデータのアクセス範囲に関するVCを利用しています。認証情報を証明したい相手に渡す際には、複数のVCをまとめてVPとして送ります。
VCは、次のステップで検証されます。

- ①VPを受け取ると、VP内のVCで指定されたDIDにアクセスし、DIDドキュメントを取得します。DIDドキュメントは、VC提供者にとって信頼がおける場所で公開されます。例えば、ブロックチェーンやVC所有者のID情報を公開するサービスであるIdentityHub(通常Connectorと一緒にデプロイ)で公開します。
- ②DIDドキュメントに含まれる公開鍵を利用して、VPを検証します。VPの検証に成功すれば、VPに記載された資格情報が正しいことになります。例えば、資格情報には、データスペースのメンバーであることや、許可されたアクセスレベルなどが含まれます。
これは、住所が記載された顔写真付きの証明書があった場合、その証明書が正しいかどうか確認する際に、実際にその所有者の住所(DIDドキュメントが格納されたサーバー)を訪れ、本人の顔と証明書の顔を見比べて本人であることを確認することに例えられます。
ただし、顔写真の照合では変装したり、双子だった場合、正しく検証できませんが、VC/DIDは公開鍵を利用しているので、確実にその所有者で署名されたものかどうか確認することができます。
ただし、この例では自分の情報を自分で提供しているので、嘘の情報を提供することができます。信頼がおける機関がVCを発行することにより防ぐことができます。
そこで、信頼のおけるVCの発行者(Issuer)を設けて、その発行者が発行したVCを証明書の検証者が検証することにより、情報の偽造を防ぐことができます。
例えば、トラストフレームワークであるGaia-X Digital Clearing Houseでは、トラストのプロバイダーが信頼がおけるとみなされるガバナンスを規定し、ガバナンスを満たしているプロバイダーのみGaia-X Digital Clearing House認証プロバイダーとしてVCの発行とコンプライアンスの検証を行える仕組みを提供しています。
参加者同士の交渉
データスペースプロトコルでは、データの交換にポリシー定義と契約締結が必要となります。データ交換のポイントは以下の通りとなります。
- データは、アセットとして共有されます。データの取得方法(データの場所、プロトコル)を定義したものがアセットになります。
- ポリシー定義により、契約を締結するための条件を指定します。例えば、データ提供企業が国内にあることや、何らかの認定ライセンスが失効していないこと、メンバーのランクが特定以上であるなどの条件を自由に定義することができます。ポリシーには、契約を締結する対象(ユーザ、グループ)を指定するアクセスポリシー、規約の条件を定義する契約ポリシーがあります。
- 契約定義では、実際にどのような条件(アクセスポリシー、契約ポリシー)でどのデータに対して提供の契約を締結するか定義します。
データ交換時に上記契約定義を用いた契約締結を事前に行うことにより、取引相手の資格などを確認することができ、これにより信頼のおけるデータ交換を実現しています。
データスペースの事例とNTTデータの活動
ここでは、データスペースの事例について、弊社の活動を例に紹介していきます。グローバルでの事例と日本の事例を紹介します。
モビリティ
ドイツで発足されたMobility Data Spaceと呼ばれるモビリティ情報を共有するデータスペースや、EUが主導するdeployMDSと呼ばれるデータスペースプロジェクトなどがあります。Mobility Data Spaceは既に150社以上が参加しており、データスペース内で、信号・工事・渋滞のような交通情報、船や電車のような公共交通情報、カーシェアやバイクシェアといったレンタル情報などのモビリティ情報が提供されています。
例として、車両データ、過去の事故情報、天気から道路の危険予測を行い、運転手に運転の注意を促したり、電気自動車の普及情報と充電ステーションの分布状況から、収益性の高い充電ステーションの場所を算出したり、といった取り組みがなされています。
日本でもモビリティの取り組みとして、 Japan Mobility Data Space (JMDS)があります。JMDSは、モビリティ分野を中心に地域やエリア、プラットフォームごとに分散管理されたデータを連携させ、サービス開発に必要となるデータの取得、検証環境の提供やサービス事例・ノウハウの横展開が可能となる仕組みとして、データ・ツール・サービス・人をつなぎモビリティディバイドのない社会を実現し、一気通貫でサービス創出まで行うことが出来るプラットフォームを目指しています。
これらのモビリティに関するデータスペースに参加することにより、データ提供者は、データの所有権を保ったまま、データ利用者に必要な情報のみを販売しビジネスを行うことができます。また、データ利用者は、様々な企業が提供する大量のデータを活用することにより、上記に述べたような革新的なサービスを創出することができます。また、国や国際機関の投資プログラムに参加することにより、投資を獲得しながら、社会基盤の構築に貢献することができます。
NTTデータグループはMobility Data Spaceの会員であり、Mobility Data Spaceと協力してカンファレンスなどでデモンストレーションを行っています。日本においては、JMDS基盤の構築に携わっており、JMDSに登録されているデータカタログ全体を横断的に検索する「総合データカタログサービス」やサイバー空間で分析やシミュレーションができる「データサンドボックス機能」を提供しています。
ヘルスケア
Dataspace4Healthは、ヘルスケアのためのデータスペースプロジェクトです。医療データについて、データスペースによる新しいアプローチを模索し、GDPRおよび患者の権利を尊重することを目指しています。NTT DATAは、Dataspace4Healthを通して、医療機関を跨った大量データとAIによる学習で、病気の予防、診断、治療に関する科学的知識と発見と進展に貢献し、データ駆動による医療品質の向上と医療革新を行っていきます。例えば、がんの疾患データをデータスペースでプライバシーを保ったまま安全に医療機関で共有することができ、また、疾患の原因に対する解析を大量のデータにより行うことができるようになり、がんの予防、発見、治療に対する技術革新が期待されています。データスペースを利用する利点としては、医療機関間でデータスペースによる統一したデータ交換手法を利用することにより、データスペースのプライバシーを保ったまま安全にデータ交換を行うことができます。
NTTデータは、Hôpitaux Robert Schuman、Luxembourg Institute of Health、ルクセンブルク大学、Agence eSanté、Luxembourg National Data Service(LNDS)と協力してDataspace4Healthを推進しています。
電子電気機器のリサイクル・サーキュラーエコノミー
EUが資金提供するプロジェクト「DATA4CIRC」は、電子電気機器の再製造・修理分野における重大な課題に取り組んでいます。この分野では、修理部品の追跡可能性、資源効率の低さ、廃棄物管理の複雑さなどの障壁が存在します。特に重要な課題は、修理・再製造製品のライフサイクル透明性を確保しつつ、電子廃棄物からの再利用可能な部品・材料の回収を効率化することです。電子廃棄物の追跡システムがない場合、金属や部品などの貴重な資源が未利用となり、廃棄物の増加と環境負荷・製造コストを増大させます。
これらの課題に対処するため、DATA4CIRCでは「デジタル製品パスポート(DPP)」と「共通データスペース」を統合したデータ駆動型AI支援デジタルフレームワークを導入します。このソリューションは、修理・再製造される電子電気機器の追跡を可能にし、修理回数・スペアパーツ回収状況・再利用可能金属の特定を正確にモニタリングします。先進的再製造技術と革新的リサイクルプロセスを組み込むことで、材料の再利用を最適化し、廃棄物を大幅に削減しながら持続可能性を促進します。修理センターとの連携により、修理・部品回収から廃棄物処理・リサイクルに至るバリューチェーン全体でサーキュラ―エコノミー(循環経済)を実現します。
本取り組みにより、下記の効果が期待されます。
- 原料調達コスト削減と廃棄物管理改善による環境負荷低減でオペレーションの効率を向上
- トレーサビリティ強化によるサステナビリティガイドライン順守の徹底と再製造製品への消費者の信頼性を向上
- 回収材料の電子部品生産への再利用により貴重な資源を保護し、新規資源への依存度の低いサーキュラ―エコノミーサプライチェーンを構築
この包括的フレームワークの導入により、DATA4CIRCは電子電気機器産業に革命をもたらし、再製造とリサイクルをより効率的・経済的・環境配慮型に変革することを目指します。本プロジェクトはEUのサーキュラリティエコノミー戦略に沿ったもので、電子電気機器製造と廃棄物管理における持続可能で資源効率の高い未来への道を拓く役割を果たします。
バッテリートレーサビリティ(日本)
バッテリートレーサビリティとは、電動車向けバッテリーの製造から廃棄までの一連の流れを追跡・管理する取り組みです。
NTTデータは、上記に説明したウラノスの取り組みに参画し、バッテリートレーサビリティに関する、サプライチェーン上の企業間を跨るデータを収集する仕組みを実用化しました。※注1 今後は、バリューチェーン上のプレーヤーと情報連携する機能を拡張することで、バッテリーのパフォーマンスや劣化状況を把握し、サーキュラー・エコノミーの実現を目指していきます。
この取り組みにより、NTTデータはバッテリーの製造プロセスの透明性を向上させ、リサイクルの効率性を高めます。また、バッテリーの寿命を延ばすことによって、環境負荷の軽減にも寄与することで、持続可能な未来を実現します。
注1: NTT DATAは、ウラノス・エコシステムに関する公募事業に採択され、2023年10月より、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「産業DXのためのデジタルインフラ整備事業」(JPNP22006)の委託事業として開発・実証しています。
産学国際連携(日本)
東京大学データスペース国際テストベッドは、東京大学が主幹で運営している国際的なデータ共有と協力を推進するための先進的なプラットフォームです。このテストベッドは、異なる国や地域の研究機関や企業が、安全かつ効率的にデータを共有し、共同研究や開発を行うことを目指しています。具体的には、データ共有のプロトコルや標準を策定し、参加者が共通のルールに基づいてデータを交換できるようにすることを目的としています。
さらに、東京大学は国際的なパートナーシップを積極的に推進しており、他の大学や研究機関、企業との連携を強化しています。この取り組みは、グローバルな視点からの問題解決や技術革新を促進するものであり、世界中の研究者や開発者にとって有益なプラットフォームとなっています。
NTT DATA Groupは東京大学テストベッドに参画し、オンボーディングの支援を行い、データスペースの普及活動に貢献しています。
分散アーキテクチャを活かしたユースケース
データスペースは、国の機関や国際機関をトリガーとして広がりはじめたため、現在のところ、企業間・組織間連携の文脈でのユースケースが多いですが、分散アーキテクチャを活かしたユースケースも効果的だと筆者は考えています。
従来のSNSプラットフォームは、X、Facebook、LINE、Instagramのように特定の企業のサービスとして提供されていましたが、データスペースを利用している訳ではありませんが、DiscordやBlueskyのようなユーザが自由にサーバを提供できる分散型のSNSが提供されたり、マインクラフトのような自前でサーバを提供することができるゲームなどもでてきています。
このようなSNSやゲームにおけるユーザの認証やデータ交換、自作ステージのデータスペース内での共有などでのデータスペースの活用も考えられます。各ユーザが分散してデータを持ちデータスペースで共有していれば、サービスの終了によるデータの喪失を防ぐことができます。
また、データ主権の考えのもと、Nextcloudのようなオンプレミスでのプライベートクラウドソリューションが注目され、企業内・組織内でのオンラインストレージ、コミュニケーションプラットフォームとして利用されています。これらのプライベートクラウドサービスが将来的にデータスペースによりデータ連携できるようになれば、他社・他組織のプライベートクラウドと安全にデータ交換ができるようになります。
データスペースって美味しいの?
さて、データスペースについて、ご紹介してきましたが、ご理解頂けましたでしょうか?本記事は筆者の私見をはさみつつ紹介しているので、他の記事を読まれた方は、若干違う印象を受けられたかも知れません。データスペースはまだ新しい技術なので、様々な人の色々な期待が籠もっていてもよいと思います。最後に、筆者が思うデータスペースの面白さをご紹介したいと思います。
最新のW3C/Eclipseの技術の集約
W3Cで策定されているVerifiable Credneial/DIDと言った、最新のトラストの仕様に基づいてアーキテクチャが設計されており、目新しい技術に沢山触れることができる。ブルーオーシャンで技術者として名を上げるチャンスがある
まだそんなに事例がある訳でもないし、ソフトウェアスタックが揃っている訳でもない。エンジニアとしてその領域で名前を上げるチャンスがある。(元に筆者は、データスペースのトラストの著名なプロジェクトであるGaia-Xにコントリビュートし始め、3ヵ月でDeveloperの地位を貰っている)新規ビジネスに参入する余地がビジネス的にも技術的にもある
例えば、SnowflakeやDatabricksとデータスペースのコネクタを提供し、データスペースが提供した様々な企業のデータを既存の枠組みで簡単に活用する仕組みを作ってビジネスをするなど、誰も気付いていないアイデアが沢山。ジャイアニズム(中央集権的システム)からの開放という大きな夢がある!!
ところで、みなさんはフグはお好きでしょうか?データスペースは、フグのようなものだと感じています。美味しいフグも安全に食べるためには上手く調理する必要があります。データスペースもまだ成熟していない分野であり、上手く調理するのもまた楽しみの一つと言えるでしょう。
本稿を読んでデータスペースに興味を持った方は、是非データスペースを使ってみてください。まずデータスペースを利用したい方は、Minimum Viable Dataspace(MVD)を利用すれば、最小限のデータスペースをKubernetes上に簡単に構築することができます。利用手順も、データスペースを構築する前段のKubernetesクラスタの構築方法から詳しく記載されています。 MVDのサイトはこちら(リンクをクリック) になります。本稿を読んで少しでもデータスペースに興味を持つ人が増えれば幸いです。