【アーキテクチャConference2025】『ソフトウェア』で『リアル』を動かす:クレーンゲームからデータ・AIまでの統一アーキテクチャ
2025年11月20日・11月21日に、ファインディ株式会社が主催するイベント「アーキテクチャConference2025」が、ベルサール羽田空港にて開催されました。
M&Aで事業拡大を続けるエンタメ企業・株式会社GENDA。同社の開発組織は、M&Aによって異なる技術スタックが加わり、システムが複雑化する状況が続いていたため、内製化と共通基盤化を進めてきました。20日に登壇した同社のCTO・梶原 大輔さんは「M&Aが続く環境下では『変化を前提とした設計』が重要だ」と語ります。具体的には、どのような設計が求められているのか?本セッションでは、実店舗にあるゲーム機との連携やデータ基盤統合など、同社の取り組み事例をもとに、リアルとデジタルの融合を実現するアーキテクチャについてお話しいただきました。
■プロフィール
梶原 大輔
株式会社GENDA
執行役員 CTO
略歴:2006年、ヤフー株式会社入社。2007年、グリー株式会社入社。2014年、同社執行役員に就任。2021年10月、株式会社GENDA入社。CTOに就任。2023年9月、執行役員に就任、同年11月より現職。株式会社GENDA Capital取締役を兼任。2021年10月から2025年1月まで株式会社GENDA SEGA Entertainment(現 株式会社GENDA GiGO Entertainment)の執行役員CTO、IT戦略本部 本部長を歴任。2024年、日本CTO協会理事に就任。
M&Aで急拡大する中で直面した「リアル店舗×デジタル」の複雑性
GENDA CTOの梶原と申します。本日は、GENDAがリアル店舗とデジタルをどのように統合しているのか、アーキテクチャの観点からお話しします。
GENDAはエンターテイメント領域で幅広く事業を展開しており、国内外でアミューズメント、カラオケ、ライフスタイル、ツーリズム、フード&ビバレッジ(F&B)、キャラクターMD、コンテンツ&プロモーション、など多様なエンタ-テイメントをを展開している会社です。2018年創業の会社で、2023年にはグロース市場に上場しました。連結従業員数は1万5千人以上。成長戦略の軸にはM&Aをおいており、事業規模は急速に拡大を続けています。「世界中の人々の人生をより楽しく」というAspiration(大志)を掲げ、「2040年世界一のエンタメ企業に」というVisionの実現を目指しています。また行動指針として「Speed is King」「Grit and Grit」「Enjoy our Journey」という3つのGENDA Valueがあります。
創業以来、60件以上のM&Aを実施し、アミューズメントとカラオケ領域を中心に様々な事業や企業がグループインしました。それに伴い、システムの種類が増加し続けており、シナジーの創出と技術統合が日常的に発生することで、アーキテクチャの設計に大きな影響を及ぼしています。各社固有のシステムがある上に、業務もそれぞれに異なるため、その特性を理解した上で、共通化および内製基盤を整えていっております。

こちらは、GENDAが展開する主要なプロダクトのロゴの一覧です。アミューズメント施設「GiGO」の会員アプリや「カラオケBanBan」の公式アプリ、オンラインクレーンゲーム「GiGO ONLINE CRANE」など、顧客向けのサービスを複数提供しています。
それだけでなく、グループ企業向けのDX支援として、業務システムの開発やデータ基盤の構築、生成AIの活用も実施しています。
本日は、GENDAのシステムの全体像と方針をお話ししたあと、M&Aと共に進んでいる各種プロダクトの開発事例をご紹介します。最後に、統合を支えるテック組織についてもご説明いたします。
内製化と共通基盤化で実現する「変化に強い」アーキテクチャ
先ほどもお話しした通り、GENDAではM&Aのたびに異なる技術スタックが加わり、システムが複雑化する状況が続いていました。オンプレミスのレガシー環境から最新のクラウドネイティブな環境まで、様々なシステムがあり、統合の難易度が非常に高い状態です。さらに、リアル店舗との連携が必須であり、IoTデバイスの使用など、物理的な制約も考慮する必要があります。これらを前提に、変化に強いアーキテクチャが求められていました。

統合アーキテクチャの方針として、私たちは6つのポイントを定めています。まず内製化を推進し、自社の得意な技術スタックへの集約を図っています。店舗連携にはIoTデバイスを活用し、基幹システムはコア機能に特化させて、周辺機能は内製化したDXシステムが担う構図へと移行しています。さらに、全社共通のデータ基盤と会員基盤を整備し、M&Aによる変化に耐えうる組織を構築しています。

システムの全体像としては、GiGOやカラオケBanBanの各店舗におけるPOS、IoTデバイス、カメラなどの物理層を、事業会社ごとのアプリや基幹システムと接続しています。これらは個別に異なる構成を持ちつつも、共通のデータ基盤と会員基盤によって横断的に統合されています。これにより、M&Aで拠点が増えたとしても、拡張性と統合性を維持できる構造を実現しています。

M&Aとともに歩むGENDAのプロダクト開発事例
GiGOアプリの内製化と技術的負債の解消

ここからは、M&Aとともに進めてきたプロダクト開発の具体的な事例を紹介いたします。1つ目にご紹介するのは、GiGOアプリの内製化事例です。
GiGOアプリは、店舗体験を向上するために開発された、アミューズメント施設「GiGO」のお客様向け公式アプリです。チェックインやプレイ回数に応じて特典が付与されたり、会員グレードやランキングが上がったりします。顧客行動データを取得する重要な接点としても機能しており、ここで蓄積されたデータは、後ほどご説明するデータ戦略やIoT連携における基盤として、事業全体をつなぐ重要な役割を担っています。
内製化に踏み切る前は、開発速度やコスト構造に改善の余地がありました。プロダクト開発の外注依存度が高く、開発サイクルが長期化していたのです。技術的負債が蓄積してしまい、保守性を向上するためには技術スタックの見直しも必要でした。さらに、ユーザー体験の改善、およびUI/UXの刷新も求められており、これらの課題を解消するべく内製化を進めることにしました。

内製化をするにあたり、技術スタックをGoとReactに刷新し、アプリケーションとバックエンドの構造を再構築しました。
既存システムの一部は残しつつ、刷新したシステムと並行稼働させる段階的な移行体制を採用し、リスクを最小限に抑えています。この体制により、技術的負債を解消しながら開発スピードを向上させることができ、「FindyTeam+ Award 2025」を受賞しました。開発生産性向上の取り組みについては、Findy Team+に掲載されている記事をご覧いただければと思います。
AWS IoT CoreとMQTTで実現したID-POS

2つ目の事例として、「GiGOリンク」によるIoT連携についてもご紹介します。
GiGOリンクは、GiGOアプリの利用を促進するために開発された追加機能であり、スマホをゲーム機にかざすだけで決済・プレイができます。
アミューズメント施設にはレジがなく、誰がどの筐体で遊んでいるかのデータを取得できないというクリティカルな課題がありました。この課題を解決するためにも、GiGOリンクを導入してID-POSを実現したいと考えました。

こちらはGiGOリンクのシステムの概略です。アミューズメント施設1店舗あたり、クレーンゲームを中心に数100台以上の筐体があります。店舗内の筐体はネットワーク化されていませんでしたが、核筐体にIoTデバイスを取り付け、AWS IoT CoreとMQTTで基盤を構築しました。
これにより、アプリ経由でのキャッシュレス決済が可能となっただけでなく、誰がどの筐体で遊んでいるかというID-POSデータを取得できるようになりました。

さらに、私たちは店舗運営も行っているため、ネットワーク環境も重要な改善対象として捉えています。今回のIoT連携を進めるにあたり、店舗ネットワーク側が抱えていた課題も同時に解決してきました。
以前は外部ベンダーのWi-Fiサービスを利用していたため、詳細なログが取得できず状況把握が困難でしたが、ベンダー協力のもとログ解析を実施し、その結果に基づいた最適化を行いました。また、アミューズメント施設特有の「地下店舗」という環境による通信の不安定さや、Bluetoothを含む電波干渉の問題、さらにミニクレーンが一斉に通信する際の混線といった課題に対しても、細かな調整を繰り返しました。
DXシステムと基幹システムの分離戦略

「GiGO NAVI」というDXシステムと基幹システムの連携についてもご説明します。
GiGO NAVIは、アミューズメント施設で働く店舗スタッフ向けの業務支援ツールです。店舗の売上情報やクレーンゲームの景品の棚卸しの情報について、以前は開くのに数分かかるほどの巨大なエクセルで管理していました。これをシステム化してスマートフォンアプリから入力・管理できるようにしたことで、業務効率化に成功しました。

ここでもGoとReactを採用しています。このプロジェクトで特徴的だったのは、基幹システムとの適切な分離を実現できた点です。
これまでは、基幹システムに様々な機能を追加していくと、改修コストの増加や開発期間が長期化するという課題がありました。そこで、既存ベンダーに依頼して基幹システムにAPIを追加し、内製化したDXシステムから基幹システムのデータを取得・更新できる仕組みを構築しました。
これにより、基幹システム側はシンプルな機能の運用に専念できるようになりました。また、内製のDXシステム側で機能拡充を行うことで、店舗業務の更なる改善にも繋げられています。
M&A後のアプリ内製化と基幹システム連携

カラオケBanBanのアプリの内製化と基幹システム連携についてもお話しします。
カラオケBanBanのアプリは、会員証の提示やポイント付与、ランク特典の提供といったリアル店舗での体験を支える軸として運用されています。
このアプリは、M&Aによるグループ参画時点で運用開始から10年以上が経過しており、UIとインフラの両方でレガシー化が進んでいました。
参画前は外注による全面リニューアルを検討していましたが、経営統合プロセス(PMI)のミーティングを重ねる中で「内製化する」という意思決定をして、開発がスタートしました。
このプロジェクトで難しかったのは、カラオケ業界特有のドメイン知識の習得です。POSレジとの連携や、既存会員データの円滑な移行を実現するためには、業界ならではの仕組みを理解する必要がありました。

POS連携における具体的な改善点としては、データの即時性の向上が挙げられます。従来のシステムは日次バッチ処理でデータをアップロードしていたため、売上データが翌日にならないと確定せず、空室状況もリアルタイムに把握できないというボトルネックがありました。
これは今後のアプリ改善や店舗運営の足かせになると判断し、バックエンド側にAPIを用意することで、レジから定期的にデータを送信する仕組みへと刷新しました。このリアルタイム化によって、アプリを通じた顧客体験やデータ活用の精度を高める流れが整いました。

アーキテクチャについては、GiGOアプリと同様にGoとReactを採用しています。技術スタックを統一したことで選定プロセスがスムーズになり、独自のPOSレジ連携も含めて効率的な開発が実現できました。

Databricksによる統合基盤×AIエージェントによる業務最適化
Databricks×Snowflakeによるデータ民主化
ここからはデータ基盤とAIの活用、データ戦略についてお話しします。
繰り返しになりますが、GENDAではM&Aによる規模拡大により扱うデータ量と種類が爆発的に増加しています。グループインした企業のデータ統合を進める中で、事業の意思決定を支えるデータの重要性が再認識され、データ連携の必要性が高まったことが基盤刷新の背景にあります。
データの課題は3つあり、1つ目は売上や原価といった指標の定義が事業部ごとに異なり、統一的な意思決定ができない状態だったことです。
2つ目は、BIツールや個人で分析するためのExcelが乱立していて、ノウハウが分散していたこと。
そして3つ目は、先ほどもお話ししたように、レジがないためPOSデータが存在せず、来客数の把握が困難だったことです。棚卸しも手作業中心で、データ精度に課題があり、これらが統合の障壁となっていました。
そこで目指す姿として、DatabricksとSnowflakeを選定し、統合基盤の構築を進めました。データマネジメントの面では、共通定義の策定やデータカタログの導入により意思統一を図り、グループ会社と各事業部が自走できる分析環境も提供しました。また、データ取得については、アプリによるID-POSやIoT、カメラなどを活用して収集できる構造を整備しています。

現在のデータ基盤は、Databricksをベースに構築しています。dbtを活用して、多様なソースからデータを中継しながらDatabricksに集約するワークフローを確立しているのが特徴です。Snowflakeはデータクリーンルームとして活用し、セキュアな状態でのデータ運用を徹底しています。これにより、BigQueryなど異なる環境を使っている外部プレイヤーからのデータ吸収もスムーズに行えるようになり、グループ全体のデータ活用精度を高めています。
AIカメラとシミュレーションによる実店舗DX
データ基盤が整ったことで、AI活用が実用段階に入りました。共通定義の策定、APIによるリアルタイム連携、ID-POSの整備、IoTやアプリによる計測が揃ったことで、社内ではAIエージェントが次々と生み出されています。ここからは、その具体的な活用事例をお話しします。

AIエージェント事例の1つ目としてご紹介するのは、クレーンゲームの景品の割り振りの最適化です。
クレーンゲームの景品は毎月約3,000品目が登場し、その中から約1,000品目を選定・発注したあと、どの店舗に割り振るかを検討するというプロセスがあります。今回自動化したのは、この最終工程である「どの店舗にどの景品を何個割り振るのか」という配分業務です。
以前は4名ほどのチームが数日かけてミーティングやシミュレーションを行っていましたが、これをAIによって自動化しました。景品が多すぎれば不良在庫となり、少なすぎれば機会損失を招いて顧客満足度を下げてしまいます。この配分を最適化したことは、事業だけでなく、お客様への体験価値向上にも大きく貢献できたのではないかと考えています。

2つ目にご紹介するのは、AIカメラによる人流分析です。
アミューズメント施設には、クレーンゲームの他に、音楽ゲームやメダルゲーム、ビデオゲーム、カプセルトイなど様々な筐体があります。その配置はマニュアルや店長の経験と勘に頼って行われていた上に、フロアの人数を把握する際にはスタッフが計算器で計測していました。
現在は、各店舗に約30台のカメラを設置し、フロアの人数の自動計測を実現しています。さらに、複数のカメラから得られる人物データを合成するモデルを構築したことで、滞在位置や来場者数を正確に可視化できるようになりました。これにより、データをもとにした機械の入れ替えやプランニングも可能となっています。
スケーラブルな共通認証基盤「GENDA ID」

次に、共通基盤である「GENDA ID」についてご説明します。
GENDA IDは、カラオケBanBanやGiGOなど、エンドユーザー向けの各サービスを横断して利用できる共通のID基盤です。
ログインを統一することで、お客様は各サービスをスムーズに利用できるようになり、事業をまたいだ共通の体験を提供することが可能となります。開発側からしても、サービスごとに個別のID基盤を開発する必要がなくなるという、大きなメリットがあります。現在、ID数は250万を超える規模にまで拡大しています。
この基盤は新規で開発したもので、M&Aによってユーザーが急増して既存サービスから大量のユーザーが流入しても耐えられる「スケーラブルな設計」が不可欠でした。特にカラオケは、利用する際には会員証が必須のサービスであるため、一気にお客様が増える場面が想定されましたが、そうした負荷を支えきることが設計の鍵でした。現在は、自社のアプリやウェブだけでなく、サードパーティーなどの多様なクライアントにも提供可能な認証基盤として構築しています。

アーキテクチャについては、GoとNext.jsを採用し、クリーンアーキテクチャに基づいて設計・実装を行っています。API側は使いやすいRESTを採用し、管理画面側にはGraphQLを用いることで、M&Aに伴う複雑な統合作業にも耐えうる柔軟な構成を実現しています。
解像度を極限まで高める「現場主義のエンジニアリング」

次にテック組織についてご説明します。
GENDAのテック組織は、横断組織と事業ドメインのマトリックス構造を採用しています。技術組織をGENDAに集約し、各グループ会社のプロダクト開発を行っています。また、今年からは各グループ会社にCTOを配置しました。グループ会社ごとのプロジェクトチーム内で、CTOを中心に技術戦略を立て、開発を推進する体制が整っています。
この体制のポイントは、ヘッドクォーターのテックチームが各グループ会社の経営メンバーと連携している点にあります。これにより、横断的なDX支援が可能になるだけでなく、経営に近いレベルで意思決定できます。ボトムアップで開発を積み上げていくスタイルというよりは、トップダウンでスピーディーに物事を決めて進められるため、実行力の高い組織だと言えます。

また、GENDAの大きな特徴は、エンジニアが実際に店舗スタッフとして働く「現場主義のエンジニアリング」です。私もGiGO NAVIを開発する際には、深夜に景品の棚卸し作業をしたり、カラオケBanBanの店舗でも働いたりして、自分自身で経験して不便だと感じたところをシステム設計に落とし込みました。
最近は入社後のオンボーディングプロセスにも店舗体験が組み込まれており、エンジニアが現場の解像度を高めるための重要なステップとなっています。
お客様を自分の目で見て、店舗スタッフから直接話を聞くことで、本当に現場で役立つプロダクトを開発することができます。このような現場主義のエンジニアリングこそが、我々の強みだと考えています。
目指すのは、環境変化に伴い進化し続けるアーキテクチャ

まとめます。改めてお伝えしたいのは、M&Aが続く環境下では「変化を前提とした設計」が重要だということです。我々は内製化を進めると同時に、自分たちが得意とする技術スタックを統一してきました。これにより、エンジニアの採用が非常に加速し、4年間で50名近いエンジニアが集まる組織へと成長しました。
ソフトウェア開発だけでなく、IoTデバイスを介してリアル店舗と連動させている点も大きなポイントです。ハードウェアが得意なベンダー様と協力しながら開発を進めており、最近では自社のメンバーが3Dプリンターを使いながら機器を自作し、実験店舗で検証をするといった取り組みも進めています。
そして、DXを推進する上での一番のキーポイントは、複雑な基幹システムをいかにシンプルにするかという点にありました。基盤を刷新したことがその後に繋がっています。さらに、データ基盤を統一したことで、多角的な分析やデータにもとづいた事業展開が可能となり、GENDA IDを軸にした共通機能も生まれる予定です。組織面についても、M&Aに耐えうる柔軟な組織づくりを進めています。
今回ご紹介した取り組みは、M&Aで変化し続ける環境の中で、リアルとデジタルを繋ぎながら基盤を整備してきた事例です。今後も更なるM&Aにより環境は変化していくと思いますが、それに合わせてアーキテクチャを進化させ、実店舗とソフトウェアの両面から価値を高めていきたいと考えております。
本日はご清聴いただき、誠にありがとうございました。

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