【AI Engineering Summit Tokyo 2025】LLMは計画業務のゲームチェンジャーか? 最適化業務における活用の可能性と限界
2025年12月26日、ファインディ株式会社が主催するイベント「AI Engineering Summit Tokyo 2025」が開催されました。
本記事では、株式会社ALGO ARTISのプリンシパルアルゴリズムエンジニア・松尾 充氏によるセッション「LLMは計画業務のゲームチェンジャーか? 最適化業務における活用の可能性と限界」の内容をお届けします。
競技プログラミングの領域では、LLMがトップレベルの人間に匹敵する、あるいは凌駕するスコアを叩き出し始めています。しかし、一意の正解がない複雑な「実務の計画業務」において、LLMは本当にゲームチェンジャーとなり得るのでしょうか。松尾氏が最適化業務の最前線から、その可能性と限界を解き明かします。
■プロフィール
松尾 充
株式会社ALGO ARTIS
プリンシパルアルゴリズムエンジニア
2016年よりジェットエンジンの機械エンジニアとして活躍。競技プログラミングのAtCoderに熱中したことから、アルゴリズムエンジニアに転身し、2021年に株式会社ALGO ARTISへジョイン。
最適化アルゴリズムの実装で現場を支える株式会社ALGO ARTIS

私たちは業務の中で多数のアルゴリズムを使っていますが、どこまでLLMの力が使えるのか、今日はそういった話をさせていただきます。
サプライチェーンを停滞させる「複雑なパズル」の正体
まず、弊社の事業についてご紹介します。弊社は「アルゴリズムの職人(ALGO ARTIS)」として、計画の最適化を実現する企業です。原料を調達し、製造計画をつくって消費者のもとに届けるサプライチェーンの中で、あらゆるところで計画が立てられています。
輸入における船の配船計画、化学品の生産計画、トラックの運行計画など、あらゆるところで計画が必要ですが、現実は担当者の方がExcelで頑張ってつくっているのが実情です。企業特有の制約が多く、複雑なパズルを担当者が解いています。膨大なExcel作業などが属人化することにより、効率性が欠如し、企業の競争力を削いでいる状態です。

数学的な「組合せ最適化問題」への昇華
例えば、海外から石炭を船で運んでくる際、発電所を止めないために石炭を欠品させないという制約を守りつつ、船の運賃やコストを最小化する必要があります。これは数学的には制約条件の中でコストやリスクを最適にする「組合せ最適化問題」として捉えることができます。

「現場で使い続けられる」実装で、運用開始後の継続率100%
弊社は線形計画法等の一般的な手法とは異なる「ヒューリスティック最適化」というアプローチを使って数学的な問題を解くアルゴリズムを活用しています。この独自のアプローチが担当者の負担軽減やコスト低減を実現しています。弊社ではほぼすべての案件で最適化アルゴリズムを使っており、アルゴリズムの専属部隊としても非常に層が厚い企業と言えます。ソリューションとして、フルカスタマイズ型の「Optium」と汎用パッケージ型の「Planium」を展開しています。運用開始後の契約継続率は100%となっており、担当者の方に信頼して使い続けていただいています。

導入実績は多岐にわたり、エネルギーや交通インフラ、製造業など幅広い大手企業に活用されています。
弊社が「最適化アルゴリズムの実装を通じて、実社会の運用を支えるプロフェッショナル集団」であることを、皆さまに知っていただければ幸いです。
OpenAIが世界大会で「人類2位」を圧倒。ベンチマークを超えるLLMの真実
まず競技プログラミングとLLMは、最近関わりが非常に深いです。競技プログラミングはプログラミングの腕を競い、いかに効率のいいプログラムを書けるかが問われる競技であり、数学的な深い考察が求められるものになっています。そのため、LLMのコーディング力や思考力のベンチマークに長らく用いられてきました。
古くはボードゲームがAIの能力を測るベンチマークになっていましたが、現在はLLMのコーディング力の評価に使われており、最近は人間を追い抜きつつあります。
世界最高峰の戦いで、人類が直面したOpenAI
私は競技プログラミングの世界⼤会「AtCoder World Tour Finals 2025」に出場しました。これは成績上位12名が招待される大会で、私は予選を最上位で通過して本戦に出場しました。

ところが開催2週間前に急遽OpenAIのLLMが参加することになり、13人目の参加者として戦いました。結果として私は人類2位を達成しましたが、OpenAIのエージェントはさらに一枚上手で、非常に強力でした。

そもそもAtCoderは、世界有数の競技プログラミングコンテストサイトです。課題を処理するためのプログラムを自分で書き、その速さや正確さを競います。

具体的には、アルゴリズム部門とヒューリスティック部門の二つがあります。アルゴリズム部門は実行時間内に正確な答えを出力するもので、最短経路問題などが例です。一方で、ヒューリスティック部門は最適解を出すのが困難な問題に対し、できるだけ良い答えを出すことを目指します。

競技プログラミングはLLMの思考力のベンチマークとして採用されています。2022年のAlphaCodeは中程度の成績でしたが、最近は上位0.2%というトップクラスの成績になっており、ここ最近の伸びは凄まじいものがあります。
大学生の世界大会ICPCでもOpenAIのモデルが全問正解する快挙を達成しており、アルゴリズム部門ではLLMが世界トップの競技者と肩を並べるレベルにあります。


「試行錯誤」の自動化が切り拓く、ヒューリスティック部門の未来
一方で、ヒューリスティック部門は長らくAIには攻略されていませんでした。正解が一つに定まっているアルゴリズム部門に比べ、ヒューリスティック部門は試行錯誤して改善していくプロセスが必要だからです。
しかし、今年の6月にSakana AIが、最適化問題を解くエージェントを開発しました。初期プログラムを繰り返し改善する仕組みで、人間の上位クラスに相当する性能を出しています。

AtCoder World Tour Finals 2025では、ロボットをグループ分けして目的地へ移動させる複雑な問題が出されました。OpenAIのエージェントは世界のトップスペシャリストの中で2位を獲得し、我々も驚きました。

LLMはコーディングやチューニングのスピードで人間を上回り、計算資源があれば多数の方針を並列で進行できる強みがあります。一方で、人間は発想力で差をつける場面もあり、コスト面でも人間の方が安上がりな場合があります。
実務適用の鍵は「直接入力」ではなく「コード生成」。暗黙知の壁をどう越えるか
データ直接投入の罠:コンテキストと検証精度の限界
LLMを業務の最適化に使う方法として、直接データを読み込ませる方法と、最適化プログラムを書かせる方法が考えられます。前者はデータ量の限界や制約の検証精度の限界があるためリスクが高いと言えます。社会インフラを担うお客様にとって、制約の見落としは致命的になります。
正しさを一貫して検証できる「コード生成アプローチ」の優位性
後者のソースコードを出力させるアプローチは筋が良く、制約もコードで一貫性を持って検証できます。
コンテストと実務には違いがあります。コンテストは仕様が明確ですが、実務は非常に複雑で、作業員の人数の制約や担当者のノウハウといった「暗黙知」が多く存在します。

文書化されない「暗黙知」と現場の落としどころ
これらはヒアリングを通じてキャッチボールしながら聞いていく必要があり、現段階では人間がヒアリングを行い、LLMをコーディングの補助として使うのが落としどころです。また、実務では評価項目が多岐にわたり、定量化しにくいものを担当者と調整していくプロセスが重要です。
パラダイムシフトを恐れない。抽象化が進む時代における「エンジニアの本質」
現場のデリバリーを高速化するLLM活用研究
弊社ではコーディングエージェントの導入や、データ変換へのLLM活用、チャットボットの研究を進めています。今後の展望として、汎用ソリューションのカスタマイズを自然言語の指示でLLMに行わせ、デリバリーを高速化する研究を行っています。インターフェースを作ってLLMが変更する範囲を制限することで、保守性と実用性を確保する仕組みの構築を進めています。

抽象化が進む歴史の先にある、エンジニアの真の価値
LLMというパラダイムシフトがありますが、ツールが進化して抽象度が上がっても、エンジニアとしてどうやって価値を生み出すかという本質は変わりません。LLMはあくまでツールとしてうまく使っていくことが必要です。

以上です。お付き合いいただき、ありがとうございました。
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