バックエンド向けデータベース カオスマップ 2025年下期版
クラウドネイティブ化とAI活用が加速する中で、バックエンド向けデータベースはこの数年で大きく様変わりしました。RDBの高信頼性は当然としつつ、分散SQLの普及、NoSQLの細分化、ベクトルDBや時系列DBの台頭など、用途に応じて選択肢が一気に増えています。一方で、整合性モデルやスケーリング戦略、コスト最適化など、設計判断の難易度も上がっています。
本カオスマップでは、主要DBを領域ごとに整理し、特徴・ユースケースの全体像をつかめるようにまとめました。
全体像
本マップは2025年11月時点の公開情報をもとに作成しております。
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ファインディ株式会社 バックエンド向けデータベース カオスマップ制作担当者
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次のセクションからは各カテゴリの解説や選定・導入時のポイントをご紹介していきます。
リレーショナルデータベース(RDB)
リレーショナルデータベース(RDB)は、データを表形式で管理し、共通のキーを用いてテーブル同士を関連付ける構造が特徴です。
近年は、クラウドマネージドDBの高度化によって、自動スケーリングや高可用性の標準化が進み、運用負荷の軽減が大きなテーマになっています。一方で、RDB自体の概念的な変化は少なく、成熟した領域として安定的に活用され続けています。
■ このカテゴリのDB例とレビュー
| Amazon Aurora |
株式会社リブセンス のAmazon Auroraレビュー マッハバイトのメインDBのAmazon Aurora化 |
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株式会社ココナラ のAmazon Auroraレビュー KPI実現のためにAmazon Auroraを採用 | |
| PostgreSQL |
株式会社ROXX のPostgreSQLレビュー RLSによるテナント分離:セキュリティ要件からPostgreSQLを選定した理由 |
分散型SQL(NewSQL)
分散型SQL(NewSQL)は、RDBの持つトランザクション整合性やSQL互換性を維持しつつ、ノードを追加するだけでスケールアウトできる点が特徴です。
近年は、高頻度取引や大規模Webサービス、リアルタイム決済、SaaS基盤など、強整合性と水平スケールを同時に求める領域で採用が急速に拡大しています。クラウドベンダーによるマネージドNewSQLの登場も進み、企業の技術選定における選択肢として一般化しつつあります。
■ このカテゴリのDB例とレビュー
| TiDB |
株式会社Voicy のTiDBレビュー TiDB移行によりスケーラビリティの改善とコストダウン |
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株式会社BACKSTAGE のTiDBレビュー Breaking Down LIVE をはじめとするライブ配信サービスでの TiDB Serverless の導入事例 | |
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レバテック株式会社 のTiDBレビュー TiDBを活用して分散システムで抱えてた課題を解決 | |
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株式会社プレイド のTiDBレビュー プロダクト分析サービスの超高速集計レイヤーとしてのTiDB | |
| Google Cloud Spanner |
株式会社コロプラ のGoogle Cloud Spannerレビュー 株式会社コロプラの Spanner 活用事例 |
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アソビュー株式会社 のGoogle Cloud Spannerレビュー B2B2C型Saasの新規開発に際するCloud Spannerの導入・活用事例 |
NoSQL
NoSQLは、スキーマの柔軟性、水平スケールの容易さ、高速な読み書き性能が特徴で、アプリケーション要件に応じて最適なモデルを選べる点が強みです。
NoSQLにはドキュメント、キーバリュー、カラム型、時系列、ベクトル、マルチモデルなど多様なカテゴリが存在します。近年は、AI活用やリアルタイム分析の需要増により、ベクトルDBや時系列DBの採用が特に伸びています。
ドキュメント型データベース
ドキュメント型データベースは、データをJSON形式で柔軟に保存できるDBです。スキーマ定義が不要で仕様変更に強いです。「直感的」で「変更に強い」のが最大の特徴です。
かつては「Web系のライトな用途向け」と思われることも多くありましたが、現在は企業の基幹システムでも採用されるほど成熟しています。AIとの融合がトレンドで、ベクトル検索機能を標準搭載し、生成AI(RAG)の基盤としての利用が進みつつあります。
■ このカテゴリのDB例
| Amazon DocumentDB | Amazon DocumentDBは、MongoDB API互換のフルマネージド型サーバーレスドキュメントデータベースサービスです。アプリケーションの要求に応じて容量を自動でスケールし、ピーク時プロビジョニングと比較して最大90%のコスト削減を実現できるのが特徴です。
Amazon DocumentDBページへ |
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| Apache CouchDB | Apache CouchDBは、信頼性を追求したDBです。サーバークラスターからモバイル/Webブラウザまでシームレスなデータ同期を可能にするMulti-Masterレプリケーション(Couch Replication Protocol)であり、オフラインファーストのユーザー体験を実現する点が特徴的です。
Apache CouchDBページへ |
キーバリュー型データベース
キーバリュー型データベースは、データを「キー」と「値」のシンプルなペアで保存し、キー指定で値を高速に取り出せる点が最大の特徴です。
実際の設計ではまずRDBを中心に据えつつ、「どうしてもスピードが出ない部分」にRedisやDynamoDBをピンポイントで組み合わせるケースが主流です。
近年はキャッシュ用途に留まらず、セッション管理やリアルタイム分析、イベント処理の基盤としても採用が進み、メインDBとしての存在感も高まりつつあります。
■ このカテゴリのDB例とレビュー
| Amazon DynamoDB |
株式会社Schoo のAmazon DynamoDBレビュー DynamoDBで実現する柔軟性と高パフォーマンスなデータ管理 |
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株式会社kubell のAmazon DynamoDBレビュー ビジネスチャットサービス 大規模DBでのDynamoDB採用事例 | |
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株式会社カケハシ のAmazon DynamoDBレビュー DynamoDB: アーリーからレイトステージまで支える揺るぎない信頼性 |
カラム型データベース
カラム型データベースは、データを「行」単位ではなく「カラム」を最小単位として管理し、関連するカラムをまとめた“カラムファミリー”として保存します。この構造により、特定カラムへの読み書きが非常に高速で、膨大なデータを水平にスケールさせながら処理できる点が大きな特徴です。
近年は「超大規模データを扱いつつ、特定の属性だけを素早く集計・取得したい」というニーズが増え、他方式では対応が難しいワークロードを支える存在として採用されています。
■ このカテゴリのDB例
| ClickHouse | ClickHouseは、リアルタイム分析に特化した非常に高速なオープンソースのOLAPデータウェアハウスです。カラム指向データベースとして、システムリソースを最大限に活用し、クエリを高速に処理できる点が特徴です。
ClickHouseページへ |
|---|---|
| DataStax | Apache Cassandra上に構築されたクラウドネイティブなNoSQLデータベースソリューションです。オープンソースのCassandraを基盤とすることで、クラウドのロックインを回避できるのが大きな特徴です。
DataStaxページへ |
時系列データベース
時系列データベースは、データの内容そのものよりも「いつ生成されたか」という時刻情報を最重要のインデックスとして扱う設計になっており、連続的に発生する大量データを高速に書き込み・圧縮・集計できる点が最大の特徴です。
主なユースケースは、サーバーのリソース状況を記録するシステム監視、アプリの利用状況を捉えるイベントログ分析、IoT・産業分野でのセンサー値収集など。
近年は、オブザーバビリティツールの普及やIoTデバイス増加により、時系列データの量が急増しており、これらの基盤として時系列DBの重要性が一段と高まっています。
■ このカテゴリのDB例
| QuestDB | QuestDBは、トレーディングフロアやミッションコントロールなど、要求の厳しいワークロードに対応するオープンソースの時系列データベースです。時系列特化のSQL機能とSIMDアクセラレーションにより、超低遅延で大量のデータ取り込みとクエリを実現します。
QuestDBページへ |
|---|---|
| Tinybird | Tinybirdは、マネージドClickHouseを提供し、運用上の負担なくエンタープライズ級の分析機能を迅速に構築できます。SQLから即座にAPIエンドポイントを生成し、リアルタイムデータ製品を高速に開発できる点が特徴です。
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ベクトル型データベース
ベクトル型データベースは、テキスト・画像・音声などの非構造データを「意味を持つ数値ベクトル」として格納・検索するための専用DBで、生成AI(特にLLM)を支える中核技術として急速に存在感を高めています。
近年は、従来のベクトル検索だけでなく、メタデータフィルタ・全文検索・グラフ構造(GraphRAG)との統合が進み、「ハイブリッド検索」が主流に。さらに、PostgreSQL・Elasticsearch など既存DBへのベクトル拡張も一般化し、単独のベクトルDBとしてだけでなく「他のDBに埋め込まれる機能」としても急速に存在感が高まっています。
■ このカテゴリのDB例
| Milvus | Milvusは、GenAIアプリケーションのために構築されたオープンソースの高性能ベクトルデータベースです。特に、数100億のベクトルまで弾力的に拡張できる分散型ソリューションであり、大規模な高次元ベクトルの類似検索に特化しています。
Milvusページへ |
|---|---|
| Pinecone | Pineconeは、AI構築のための専門的なベクターデータベースです。フルマネージドなサーバーレスアーキテクチャを採用しており、手間なく自動でスケーリングします。ハイブリッド検索機能 やリアルタイムインデックス機能 により、大規模なデータセットでも関連性の高い結果を提供します。
Pineconeページへ |
マルチモデル型データベース
マルチモデル型データベースは、RDB・ドキュメント・グラフなど複数のデータモデルを「ネイティブに」扱い、単一クエリで横断的に処理できるDBを指します。
統合トランザクションや柔軟なスキーマ、関係性分析と検索の同居など、多用途なアプリケーションに向いており、特にマイクロサービス移行やフルスタックチームによるサービス開発でメリットが大きい領域です。
■ このカテゴリのDB例とレビュー
| MongoDB |
株式会社現場サポート のMongoDBレビュー MongoDBの導入 |
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PRONI株式会社 のMongoDBレビュー 共通のデータ基盤をMongoDBで構築した | |
| Valkey |
ENECHANGE株式会社 のValkeyレビュー ElastiCache for RedisをValkeyへ移行しました |
グラフデータベース
グラフデータベースは、ノード(点)とエッジ(関係)でデータを表現し、「どのデータがどことつながっているか」を高速にたどれる点が特徴です。
活用が広がっているのは、レコメンド、不正検知、サプライチェーン管理など、関係性そのものが価値になる領域です。特に近年は、AI(LLM)との統合による GraphRAG が注目されており、知識グラフとベクトル検索を組み合わせて、精度の高い検索・推論を実現する動きが進んでいます。リアルタイム推論や複雑ネットワーク分析の需要が高まる中、グラフDBは再び重要な選択肢となっています。
■ このカテゴリのDB例
| Neo4j | Neo4jは、複雑なJOINやネストされたクエリが不要な独自のCypherクエリ言語を使用し、データ間の関連性を迅速にパターン検索できます。ナレッジグラフによりAI-Readyなデータを提供し、AIシステムや不正検知など多岐にわたる用途に利用可能です。
Neo4jページへ |
|---|---|
| NebulaGraph | NebulaGraphは、超大規模グラフ向けに設計されたオープンソースの分散型グラフデータベースです。数兆のエッジと頂点を保存・処理できる唯一のオープンソースグラフDBとして市場で際立ち、ミリ秒のレイテンシで超高速なQPS/TPSを実現します。
NebulaGraphページへ |
検索エンジン(全文検索エンジン)
検索エンジンは、膨大なデータの中から高速かつ高精度で情報を取り出すことに特化した仕組みです。
最近は、従来のテキスト検索に加え、ベクトル検索やAI連携による意味検索対応が進み、精度の高い関連情報の提示や生成AIとの統合利用が注目されています。
■ このカテゴリのDB例とレビュー
| Amazon OpenSearch Service |
株式会社LayerX のAmazon OpenSearch Serviceレビュー 大量の書類を複雑な条件で検索する基盤としてOpenSearch Serverlessを利用 |
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株式会社ココナラ のAmazon OpenSearch Serviceレビュー セキュリティログ分析にSIEM on Amazon OpenSearch Serviceを利用 |
BaaS(バックエンドサービス)
BaaS(バックエンドサービス)は、アプリケーションの裏側に必要なサーバーサイド機能を自前で構築せず、クラウド上のサービスとして利用できる開発モデルです。
本カオスマップでは、BaaSはDBエンジンに加えて多機能なバックエンドを提供するプラットフォームとして、参考情報の位置付けで掲載しています。
■ このカテゴリのDB例とレビュー
| Supabase |
株式会社Nonda のSupabaseレビュー 【Supabase】MVP開発のためのオールインワンプラットフォーム |
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株式会社アンドエーアイ のSupabaseレビュー スモールスタート可能で依存度が低く移行しやすいBaaS | |
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株式会社Berry のSupabaseレビュー フロントエンドエンジニアでもできる!Supabaseを活用したスタートアップの実例 | |
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NOT A HOTEL株式会社 のSupabaseレビュー ハイブリット検索を実現するRAG実装に向けた Supabase の PostgreSQL 利用事例 |
おわりに
本レポートでは、2025年11月時点でのバックエンド向けデータベースを取り巻く技術動向や各種DBの特徴を整理しました。
本カオスマップ・レポートが、エンジニアやアーキテクトの皆さまの技術選定に役立つ一助となれば幸いです。
内容はFindy Tools編集部が独自に情報収集・編集を行い、最終的には現役エンジニアのレビューを経て精査しておりますが、万が一お気づきの点がございましたら、Findy Tools編集部までお問い合わせ頂けますと幸いでございます。
最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。
■ ツールの分類について
PlanetScale / Neon
本マップでは提供形態ではなく、データベースの根本的な構造とデータモデルに基づいて分類しております。PlanetScaleやNeonは、サーバーレス/クラウドネイティブといった分類が一般的ですが、分散型アーキテクチャを持つため、このカテゴリに含めています。Cassandra
カラム型データベースに分類したCassandraは、厳密にはワイドカラムストア(Wide-Column Store)と呼ばれ、行と列に加え、キーバリュー型データベースの拡張に近い、柔軟なデータ構造と高い分散スケーラビリティを持ちます。

























